はじめに
収益認識の5ステップ(基準第17項)の最後、ステップ5にあたるのが「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」です。ここで決めるのは「いつ収益を計上するか」というタイミングの論点です。
タイミングの判定は、まず「一定の期間にわたって充足されるのか」「一時点で充足されるのか」の二者択一から始まります。工事やサービスのように履行が時間をかけて進む取引と、物品の販売のようにある時点で支配が移る取引とで、収益計上の考え方が大きく異なります。
本記事では、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」第35項から第46項に基づき、収益認識のタイミングを実務の流れに沿って解説します。
概要
収益認識のタイミングの判定は、支配の移転の考え方を起点に、次の流れで進みます。
1. 第38項の3要件のいずれかを満たすか判定
├─ 満たす → 一定の期間にわたり充足
│ → 進捗度を見積り、進捗度に応じて収益認識(第41項・第42項)
└─ いずれも満たさない → 一時点で充足
→ 支配を移転した時点で収益認識(第39項・第40項)
ここでいう「支配」とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業が便益を享受することを妨げる能力を含む)をいいます(第37項)。
具体的な会計処理
ステップ1:一定の期間にわたり充足するか3要件で判定する
第38項では、次の(1)から(3)の要件のいずれかを満たす場合に、資産に対する支配を顧客に「一定の期間にわたり」移転し、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識すると定めています。
要件 | 内容(第38項) | 典型例 |
|---|---|---|
(1) | 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること | 日常的・反復的なサービス(清掃・保守等) |
(2) | 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること | 顧客の土地上での建設 |
(3) | 次の要件のいずれも満たすこと:履行により別の用途に転用できない資産が生じ、かつ、これまでに完了した履行部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること | 特定仕様の受注制作 |
これら3要件のいずれかを満たせば「一定の期間にわたり充足される履行義務」となります。
ステップ2:一時点で充足する場合の支配移転の指標を確認する
第38項(1)から(3)の要件のいずれも満たさず、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合は、「一時点で充足される履行義務」として、資産に対する支配を顧客に移転した時点で収益を認識します(第39項)。
支配が移転した時点を決定するにあたっては、第37項の定めを考慮したうえで、第40項の次の指標を考慮します。
指標(第40項) | 内容 |
|---|---|
(1) | 企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること |
(2) | 顧客が資産に対する法的所有権を有していること |
(3) | 企業が資産の物理的占有を移転したこと |
(4) | 顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること |
(5) | 顧客が資産を検収したこと |
これらは網羅的なリストではなく、いずれか単独で決まるものでもありません。複数の指標を総合的に勘案して、支配の移転時点を判断します。
ステップ3:進捗度を見積る(一定の期間にわたり充足する場合)
一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、その進捗度に基づいて収益を一定の期間にわたり認識します(第41項)。進捗度の見積方法は、財又はサービスの性質を考慮して、単一の方法を選択します(第42項)。
方法 | 考え方 | 例 |
|---|---|---|
アウトプット法 | 現在までに移転した財・サービスの顧客にとっての価値を直接的に見積る | 引渡し単位数、達成したマイルストーン、経過期間 |
インプット法 | 履行に投入したインプットが予想インプット合計に占める割合で見積る | 発生原価、投入労働時間、機械稼働時間 |
進捗度は各決算日に見直し、見積りを変更する場合は会計上の見積りの変更として処理します(第43項)。なお、同様の履行義務及び同様の状況には、同一の方法を首尾一貫して適用します。
ステップ4:進捗度を合理的に見積れない場合の取扱い
進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ、一定の期間にわたり収益を認識します(第44項)。進捗度を合理的に見積ることができないが、履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、原価回収基準(発生する費用のうち回収することが見込まれる費用の額で収益を認識する方法)により処理します(第45項)。
ステップ5:仕訳例で確認する
設例(一定の期間にわたり充足・インプット法):受注制作の業務(別の用途に転用できず、完了部分の対価を収受する強制力のある権利を有する。第38項(3)該当)。契約金額10,000,000円、見積総原価8,000,000円。当期の発生原価は2,000,000円で、進捗度は発生原価ベース(インプット法)で 2,000,000 ÷ 8,000,000 = 25%。
当期に認識する収益 = 10,000,000円 × 25% = 2,500,000円。代金は未請求のため契約資産で計上。
(借方)契約資産 2,500,000 (貸方)売上高 2,500,000
(借方)売上原価 2,000,000 (貸方)仕掛品等 2,000,000
設例(一時点で充足):標準品の物品販売 3,000,000円。検収完了により支配が顧客に移転(第40項(5))。
(借方)売掛金 3,000,000 (貸方)売上高 3,000,000
一時点で充足する取引では、支配が移転した時点(多くは引渡しまたは検収)で全額を一括して収益認識します。
留意点
- 3要件の判定が先:タイミングの論点は、まず第38項の3要件で「一定の期間か一時点か」を判定し、その後に進捗度や支配移転時点を検討する。順序を逆にしない
- 進捗度の方法は性質に応じて単一に:アウトプット法・インプット法のいずれを選ぶかは財・サービスの性質を踏まえて決定し、同種の履行義務には首尾一貫して適用する(第42項)
- インプット法の補正:発生原価のうち、顧客への移転を表さないインプット(想定外の仕損や、進捗に比例しない調達材料等)が含まれる場合は、進捗度の算定上の調整を検討する
- 原価回収基準:進捗度を合理的に見積れないが費用回収が見込まれる初期段階では原価回収基準を用いる(第45項)。見積りが可能になった後はその時点から進捗度に応じた認識に移行する
- 支配の定義に立ち返る:一時点の指標(第40項)は判断材料であり、最終的には「支配(第37項)が移転したか」という実質で判断する
まとめ
収益認識のタイミング(ステップ5)の判定を整理すると次のとおりです。
判定 | 処理 | 根拠 |
|---|---|---|
第38項の3要件のいずれかを満たす | 一定の期間にわたり充足。進捗度に応じて収益認識 | 第38項・第41項 |
進捗度の見積方法 | アウトプット法 または インプット法(単一・首尾一貫) | 第42項 |
進捗度を合理的に見積れない | 費用回収見込みなら原価回収基準 | 第45項 |
3要件をいずれも満たさない | 一時点で充足。支配移転時点で収益認識 | 第39項・第40項 |
収益認識のタイミングは、「支配がいつ顧客に移るか」という一点に集約されます。まずは自社の主要な履行義務が第38項の3要件に該当するかを類型ごとに整理し、一定の期間にわたるものについては進捗度の測定方法をあらかじめ定めておくことが、決算実務をスムーズにする鍵となります。