はじめに

工事契約や受注制作のソフトウェアなど、一定の期間にわたって履行義務が充足される取引では、決算日ごとに進捗度を見積り、その進捗度に応じて収益を認識するのが原則です。しかし、契約の初期段階などでは、進捗度を合理的に見積ることがどうしてもできない場面があります。

このとき、進捗度を見積れないからといって収益をまったく認識しない(完成・引渡しまで待つ)のではなく、また根拠なく見積りで収益を計上するのでもなく、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」は「原価回収基準」という橋渡しの方法を用意しています。本記事では、この原価回収基準の意味、適用条件、仕訳、そして通常処理への移行までを実務の流れに沿って解説します。

概要

原価回収基準は、一定の期間にわたり充足される履行義務に関する収益認識の流れの中に位置づけられます。

履行義務が「一定の期間にわたり充足される」と判定(第38項)
    ↓
進捗度を合理的に見積ることができるか?(第44項)
    ├─ できる  → 進捗度に基づき収益を認識(原則)
    └─ できない →
            発生費用の回収が見込まれるか?(第45項)
            ├─ 見込まれる   → 原価回収基準(回収見込費用=収益)
            └─ 見込まれない → 収益を認識しない
    ↓
進捗度を合理的に見積れるようになった時点
    ↓
その時点から進捗度に基づく収益認識へ移行

ポイントは、原価回収基準が「進捗度を見積れない期間限定の暫定的な方法」であり、進捗度が見積れるようになった時点で速やかに通常の処理へ切り替わる、という点です。

なお、原価回収基準が問題となるのは、あくまで「一定の期間にわたり充足される履行義務」に該当する取引です。第38項の3要件のいずれも満たさず、一時点で充足される履行義務に該当する場合は、原価回収基準ではなく、支配が顧客に移転した時点(引渡し・検収等)で一括して収益を認識します。したがって、まずは自社の履行義務が「一定の期間にわたり充足される」のか「一時点で充足される」のかを正しく区分することが、原価回収基準を検討する前提となります。

具体的な会計処理

原価回収基準の定義(第15項)

企業会計基準第29号第15項は、原価回収基準を「履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の額で収益を認識する方法」と定義しています。

ここで重要なのは、収益として計上する金額が「回収することが見込まれる費用の額」と一致する点です。発生した費用のすべてではなく、あくまで回収見込みのある部分に限られます。

項目

内容

認識する収益の額

発生費用のうち回収が見込まれる額

認識する費用の額

当期に発生した費用

当期の利益(マージン)

原則ゼロ(回収見込費用=収益のため)

進捗度を見積れる場合のみ進捗度で認識(第44項)

第44項は、「履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ、一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識する」と定めています。

つまり、一定の期間にわたり充足される履行義務であっても、進捗度を合理的に見積れない限り、進捗度に基づく収益認識は行えません。見積りの信頼性が確保できない段階で見込みの利益まで計上してしまうことを防ぐ規定です。

進捗度の見積りには、第41項・第42項に従い、アウトプット法(成果物の引渡単位・達成した成果等)またはインプット法(発生原価・投下労働時間等)が用いられます。これらに必要な情報が得られない初期段階では、進捗度を合理的に見積れないと判断されることがあります。

第41項は、一定の期間にわたり充足される履行義務については、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、その進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識すると定めています。さらに第42項は、契約の対象となる履行義務について単一の方法で進捗度を見積ること、第43項は、進捗度を各決算日に見直し、見積りを変更する場合には会計上の見積りの変更として処理することを求めています。つまり収益認識基準は、進捗度の信頼性が確保できることを大前提に、進捗度に基づく収益認識を組み立てているのです。原価回収基準は、この大前提が崩れた場面の受け皿といえます。

進捗度を合理的に見積れない典型例としては、以下のような状況が挙げられます。

  • 契約の取引開始直後で、必要なコストや作業量の全体像がまだ確定していない
  • 仕様変更や追加要件の交渉が継続しており、最終的な成果物の範囲が固まっていない
  • 過去に類似実績がなく、インプット法・アウトプット法のいずれによっても進捗を信頼性をもって測定できない

進捗度を見積れないが回収見込みがある場合(第45項)

第45項は、原価回収基準の適用を定める中核条文です。「履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができないが、当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、進捗度を合理的に見積ることができる時まで、一定の期間にわたり充足される履行義務について原価回収基準により処理する」と規定しています。

適用にあたっては、次の2つの要件をいずれも満たす必要があります。

要件

内容

① 進捗度を合理的に見積れない

アウトプット法・インプット法等で進捗度を信頼性をもって測定できない

② 発生費用の回収が見込まれる

契約上、発生する費用を回収できると見込まれる(赤字確定の状況等ではない)

なお、②の回収見込みすら立たない場合には、原価回収基準も適用せず、収益を認識しません(発生費用は費用として処理します)。

原価回収基準の趣旨は、「進捗度という形では収益を測定できないが、少なくとも発生した費用は回収できる」という状況を、損益計算書上で適切に表現することにあります。費用を計上しながら対応する収益をまったく計上しないと、その期間の損益が過度に保守的(赤字方向)に歪んでしまいます。一方で、信頼性のない進捗度に基づいて利益まで計上すれば、収益・利益の前倒しという逆の歪みが生じます。原価回収基準は、この両極端の中間に位置し、「収益は計上するが利益は計上しない(回収見込費用=収益)」という形で、見積りの不確実性に配慮した収益認識を可能にします。

仕訳例:原価回収基準を適用する期間

前提:システム受注制作契約(一定の期間にわたり充足される履行義務に該当)。契約初期で進捗度を合理的に見積れないが、発生費用は全額回収が見込まれる。当期に発生した費用は800万円で、全額が回収見込みである。

当期に発生した費用を計上します。

(借方)仕掛品(または原価)  8,000,000  (貸方)現金預金・買掛金等  8,000,000

原価回収基準により、回収見込費用と同額の収益を認識します。

(借方)契約資産        8,000,000  (貸方)売上高(収益)      8,000,000
(借方)売上原価        8,000,000  (貸方)仕掛品(または原価)  8,000,000

この結果、当期の損益は次のとおりとなり、利益はゼロです。

科目

金額

売上高

8,000,000

売上原価

8,000,000

売上総利益

0

回収見込費用=収益とすることで、費用は回収される(損は出ない)ことを示しつつ、確実でない利益は計上しない、という性格が表れています。

進捗度が見積れるようになった時点での移行

第45項は「進捗度を合理的に見積ることができる時まで」原価回収基準による旨を定めています。裏を返せば、進捗度を合理的に見積ることができるようになった時点で、原価回収基準の適用は終了し、通常の進捗度に基づく収益認識へ移行します。

移行のイメージは次のとおりです。

(移行前)原価回収基準の期間
    収益累計 = 回収見込費用の累計(利益ゼロ)
    ↓
(移行時点)進捗度を合理的に見積れるようになった
    ↓
(移行後)進捗度に基づく収益認識
    その決算日の収益累計 = 取引価格 × 当該決算日の進捗度
    当期の収益 = 収益累計 − 既に認識した収益累計

第43項により、進捗度は各決算日に見直すこととされています。移行時点では、その決算日の進捗度に基づく収益累計額と、原価回収基準により既に認識済みの収益累計額との差額が、当期の収益として認識されます。

仕訳例(移行後の期):移行後の決算日において、取引価格2,000万円・進捗度60%と見積られた。これにより収益累計は1,200万円となる。原価回収基準の期間に既に800万円の収益を認識済み。

当期に追加で認識する収益は 1,200万円 − 800万円 = 400万円です。

(借方)契約資産  4,000,000  (貸方)売上高(収益)  4,000,000

移行後は、対応する売上原価も当期発生額に基づいて計上され、進捗に応じた利益が認識されていきます。

原価回収基準と進捗度基準の損益イメージの比較

原価回収基準の期間と進捗度に基づく期間で、損益の出方がどのように異なるかを整理しておきましょう。同じ契約(取引価格2,000万円、見積総原価1,500万円、見込総利益500万円)について、初期は進捗度を見積れず原価回収基準、その後進捗度を見積れるようになったと仮定します。

当期発生費用

収益認識方法

当期収益

当期利益

1期(原価回収)

800万円

回収見込費用=収益

800万円

0

2期(進捗度へ移行)

700万円

進捗度に基づく

(進捗度に応じた額)

移行後に利益計上

このように、原価回収基準の期間は利益がゼロのまま費用と同額の収益が積み上がり、進捗度を見積れるようになった期から、それまで繰り延べられていた利益部分も含めて損益に反映されていきます。原価回収基準は利益を「消す」のではなく、「進捗度を見積れるようになるまで待つ」だけである点を押さえておくと、移行時の調整も理解しやすくなります。

留意点

  • 暫定的な方法である点:原価回収基準は進捗度を見積れない期間に限った暫定的な処理であり、見積れるようになれば速やかに通常処理へ移行する。長期にわたり漫然と原価回収基準を継続することは想定されていない
  • 「回収見込費用」の範囲:認識する収益は発生費用の全額ではなく、回収が見込まれる額に限られる。一部に回収不能が見込まれる費用が含まれる場合は、その部分を収益に含めない
  • 回収見込みがない場合:費用の回収すら見込まれない場合は原価回収基準も適用せず、収益を認識しない。契約が損失(赤字)となる見込みのときは、別途、受注損失引当金等の検討も必要となる
  • 適用指針の代替的取扱い:契約の初期段階において、収益を認識せず発生費用と同額を収益として処理する等、適用指針に定める代替的な取扱いが認められる場合がある。実務上は適用指針もあわせて確認する
  • 進捗度の各決算日での見直し:第43項に従い進捗度は各決算日に見直す。原価回収基準から通常処理への移行判断も、この見直しの中で行う

まとめ

原価回収基準のポイントを整理すると次のとおりです。

論点

内容(根拠条文)

定義

回収が見込まれる費用の額で収益を認識する方法(第15項)

原則

進捗度を合理的に見積れる場合のみ進捗度で収益認識(第44項)

適用条件

進捗度を見積れず、かつ発生費用の回収が見込まれる場合(第45項)

当期利益

回収見込費用=収益のため原則ゼロ

移行

進捗度を合理的に見積れるようになった時点で通常処理へ

原価回収基準は、「進捗度は見積れないが費用は回収できる」という中間的な状況を、利益を先取りせずに表現するための仕組みです。一定の期間にわたり充足される履行義務に該当する取引を抱える企業は、契約初期の進捗度の見積可能性を慎重に評価し、見積れない期間は原価回収基準、見積れるようになれば通常処理、という流れを社内ルールとして整理しておくとよいでしょう。