はじめに

収益認識の5つのステップの最後は「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」ことです。このうち一時点で充足される履行義務については、資産に対する「支配」が顧客に移転した時点を特定しなければなりません。

しかし、支配がいつ移転したかは契約や取引慣行によって判断が分かれやすい論点です。そこで企業会計基準第29号第40項は、支配の移転時点を決定するにあたって考慮すべき5つの指標を示しています。本記事では、この5指標をチェックリスト形式で整理し、実務での使い方を解説します。

概要

支配の移転時点の判断は、次の順序で進めます。

1. 履行義務が一定期間充足か(第38項(1)〜(3))を判定
    ↓ いずれにも該当しない
2. 一時点で充足される履行義務として扱う(第39項)
    ↓
3. 「支配」の定義(第37項)に立ち返る
    ↓
4. 第40項の5つの指標を一つずつ確認(チェックリスト)
    ↓
5. 指標を総合勘案し、支配の移転時点を確定
    ↓
6. 当該時点で取引価格のうち履行義務に配分した額を収益認識(第46項)

第37項では、「資産に対する支配とは、当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力(他の企業がその便益を享受することを妨げる能力を含む)をいう」と定義しています。5つの指標は、この支配が顧客に移転したかどうかを判断するための手がかりです。

具体的な会計処理

5つの指標チェックリスト

第40項(1)〜(5)は、支配の移転時点を決定するにあたって考慮すべき指標を次のとおり列挙しています。

No.

指標(第40項)

確認のポイント

(1)

企業が顧客に提供した資産に関する対価を収受する現在の権利を有していること

顧客に支払義務が生じ、企業が対価を請求できる状態か

(2)

顧客が資産に対する法的所有権を有していること

所有権が顧客に移転したか(所有権留保の有無に注意)

(3)

企業が資産の物理的占有を移転したこと

引渡し・据付完了等により顧客が物理的に占有しているか

(4)

顧客が資産の所有に伴う重大なリスクを負い、経済価値を享受していること

滅失・陳腐化リスクや値上り益等を顧客が負担・享受しているか

(5)

顧客が資産を検収したこと

仕様適合の検収が完了したか(検収条項の性質を評価)

このチェックリストは、各取引について上から順に確認し、いずれの指標が満たされているかを整理するために用います。

指標(1) 対価を収受する現在の権利

企業が資産に関する対価を収受する現在の権利を有しているかを確認します。顧客に支払義務が生じ、企業が請求できる状態であれば、支配が移転した可能性を示します。逆に、出荷しただけで請求権が発生していない段階では、この指標は満たされません。

指標(2) 法的所有権

法的所有権が顧客に移転していれば、支配の移転を示す指標となります。ただし、企業が代金回収の保全目的で所有権を留保している場合があります。所有権留保は必ずしも支配の未移転を意味せず、他の指標と併せて総合判断します。

指標(3) 物理的占有

資産の物理的占有を顧客に移転したことも指標の一つです。多くの物品販売では引渡し(顧客への着荷・据付完了等)が物理的占有の移転にあたります。ただし、買戻契約・委託販売・請求済未出荷契約などでは、物理的占有と支配が一致しないことがある点に注意が必要です。

指標(4) リスクと経済価値の移転

顧客が資産の所有に伴う重大なリスク(滅失・損傷・陳腐化リスク等)を負い、その経済価値(使用による便益や値上り益等)を享受していることも指標になります。リスク負担が顧客に移っていれば、支配の移転を裏付けます。

指標(5) 検収の有無

顧客が資産を検収したことも指標です。検収条項が形式的手続にすぎない場合は検収完了前でも支配移転を認定し得ますが、仕様適合を客観的に判断できない場合は検収完了まで支配は移転しません(詳細は検収条項に関する別記事を参照)。

5指標を用いた判定例

設例:機械装置4,000,000円を顧客の工場に据え付けて引き渡した。代金請求権が発生し、所有権・物理的占有は移転、滅失リスクも顧客負担に切り替わり、定量的な性能基準による検収も完了した。

指標

充足状況

(1) 対価収受権

充足(請求権発生)

(2) 法的所有権

充足(所有権移転)

(3) 物理的占有

充足(据付・引渡完了)

(4) リスク・経済価値

充足(滅失リスク顧客負担)

(5) 検収

充足(性能基準で検収完了)

5指標を総合勘案すると支配は顧客に移転しており、引渡・検収完了時点で収益を認識します。

仕訳例

(借方)売掛金   4,000,000   (貸方)売上高   4,000,000

一方、たとえば所有権を留保し、検収も実質的な受入判定として未了であるなど、複数の指標が満たされていない場合は、支配は未移転と判断し収益認識を見送ります。

留意点

  • 指標は順位付けされていない:5つの指標に優先順位はなく、いずれか一つを満たせば支配が移転するわけでも、すべてを満たさなければならないわけでもない。第37項の支配の定義に照らして総合判断する
  • 一定期間充足の判定が先:第38項(1)〜(3)のいずれかを満たし一定の期間にわたり充足される履行義務に該当する場合は、進捗度に基づき収益を認識するため、本指標(一時点充足)の出番ではない
  • 特殊な販売形態に注意:買戻契約、委託販売、請求済未出荷契約、本人か代理人かの判定などでは、物理的占有や法的所有権と支配が一致しないことがあるため、個別の定めを確認する
  • 判断根拠の文書化:どの指標をどう評価して支配の移転時点を結論づけたか、契約類型ごとに判断プロセスを文書化しておくと、監査対応や継続性の確保に役立つ
  • 検収条項の性質:指標(5)の検収は、形式的手続か実質的受入判定かで収益認識時点が変わるため、検収条項の内容を別途精査する

まとめ

支配の移転を示す5つの指標は、一時点認識の判断材料として次のように整理できます。

指標

内容

(1)

対価を収受する現在の権利

(2)

顧客の法的所有権

(3)

物理的占有の移転

(4)

所有に伴う重大なリスクと経済価値の移転

(5)

顧客による検収

これらは支配(第37項)が顧客に移転したかを判断するための手がかりであり、順位付けや単独の決め手ではなく総合的に勘案します。自社の主要な販売取引について、この5指標チェックリストに沿って支配の移転時点を整理し、収益認識方針として文書化しておくことをおすすめします。