はじめに
収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)は、IFRS第15号を基礎として開発されました。一方で、我が国の実務に配慮し、財務諸表間の比較可能性を大きく損なわせない範囲で、国際的な会計基準にはない代替的な取扱いが追加的に定められています(結論の背景 第98項(2))。
その代表例が、長く日本の実務に定着してきた出荷基準を一定の要件下で認める特例です。原則どおりであれば支配の移転時(多くは検収時)に収益を認識すべきところ、出荷時等で認識することを認めるものです。
本記事では、出荷基準を中心に、日本基準特有の代替的な取扱いの位置づけ・適用判断・IFRSとの差異を整理します。
概要
代替的な取扱いをめぐる判断は、次の流れで整理できます。
1. 原則:一時点充足は支配の移転時に収益認識(第39項・第40項)
↓
2. 取引が「国内の販売」かを確認
↓
3. 出荷時から検収時までの期間が「通常の期間」かを確認
↓
4. 該当すれば、出荷時等〜検収時の間の一時点での認識を選択可
↓
5. 採用した認識時点を会計方針として継続適用
↓
6. 連結でIFRS等を適用する場合は差異の有無を確認
代替的な取扱いは、第98項(2)に示された開発方針に基づき、適用上の課題に対応するために追加的に定められたものです。あくまで重要性等に基づく簡便的な位置づけであり、原則的な取扱いを否定するものではありません。
具体的な会計処理
代替的な取扱いの全体像
企業会計基準第29号は、結論の背景において、基準開発の基本方針として「IFRS第15号の定めを基本的にすべて取り入れる」一方、「適用上の課題に対応するために、代替的な取扱いを追加的に定める」としています(第97項・第98項(2))。代替的な取扱いには、たとえば次のようなものがあります。
区分 | 代替的な取扱いの例 |
|---|---|
履行義務の充足時点 | 出荷時から検収時までの期間が通常の期間である国内販売における出荷基準等 |
契約の識別・結合 | 重要性が乏しい場合の簡便的な取扱い |
履行義務の識別 | 顧客との契約に関する諸論点での重要性に基づく簡便法 |
本記事では、このうち実務上の影響が大きい出荷基準(国内販売の特例)を取り上げます。
出荷基準(国内販売の特例)の内容
原則として、一時点で充足される履行義務は、資産に対する支配が顧客に移転した時点(多くの物品販売では検収時)に収益を認識します。
これに対し代替的な取扱いでは、商品又は製品の国内の販売において、出荷時から当該商品又は製品の支配が顧客に移転される時(検収時)までの期間が通常の期間である場合には、出荷時から支配の移転時までの間の一時点(出荷時や着荷時など)で収益を認識することが認められます。
認識基準 | 収益認識時点 | 位置づけ |
|---|---|---|
検収基準(原則) | 支配の移転時(検収時) | 原則的な取扱い |
着荷基準 | 顧客への着荷時 | 代替的な取扱い(要件充足時) |
出荷基準 | 企業からの出荷時 | 代替的な取扱い(要件充足時) |
認識時点による比較
設例:国内顧客に製品2,000,000円を販売。出荷から検収までは2日程度(通常の期間)。
出荷基準・着荷基準・検収基準のいずれを採るかで、収益認識のタイミングが変わります(金額は同じ)。
【出荷基準】出荷日に認識
(借方)売掛金 2,000,000 (貸方)売上高 2,000,000
【検収基準(原則)】検収日に認識
(借方)売掛金 2,000,000 (貸方)売上高 2,000,000
通常の期間内であれば、いずれの一時点で認識しても期間帰属に重要な差が生じないため、代替的な取扱いとして出荷時等での認識が認められています。
「通常の期間」と「重要性」の判断
出荷基準を採用できるのは、出荷時から検収時までの期間が「通常の期間」である場合に限られます。「通常の期間」とは、おおむね数日程度といった、取引慣行上一般的に要する短い期間が想定されます。出荷から検収まで長期間を要する取引(遠隔地・長距離輸送等で日数が大きい場合など)には、この代替的な取扱いは適していません。
判断にあたっては、次の点を確認します。
確認項目 | 内容 |
|---|---|
取引地域 | 国内の販売であること |
期間 | 出荷時から検収時までが通常の期間であること |
重要性 | 認識時点の差が財務諸表に重要な影響を与えないこと |
継続性 | 採用した認識時点を継続的に適用すること |
会計方針としての継続適用
代替的な取扱いを採用するかどうかは企業の選択ですが、いったん採用した認識時点(出荷基準・着荷基準等)は会計方針として継続的に適用し、財務諸表の比較可能性を確保します。製品区分や取引類型によって採用基準を使い分ける場合も、その方針を明確にしておきます。
留意点
- 原則は支配の移転時:代替的な取扱いはあくまで重要性に基づく簡便法であり、原則は支配の移転時(検収時等)での認識である。出荷から検収までの期間が長い取引には適用できない
- 「国内の販売」が前提:出荷基準の代替的な取扱いは国内の販売を対象とする。輸出販売など国内販売に該当しない取引では適用できない
- IFRSとの差異:IFRS第15号には同種の代替的な取扱いがないため、IFRS任意適用会社や在外子会社との連結では、出荷基準採用により認識時点に差異が生じ得る。連結修正の要否を確認する
- 検収基準が必要なケースとの切り分け:仕様適合を客観的に判断できない受注制作等では、そもそも検収完了まで支配が移転しないため、出荷基準の代替的な取扱いはなじまない
- 適用判断の文書化:「国内販売」「通常の期間」「重要性」の各要件をどう評価して代替的な取扱いを採用したか、判断根拠を残しておくことが望ましい
まとめ
日本基準特有の代替的な取扱い(出荷基準等)のポイントは次のとおりです。
論点 | 要点 |
|---|---|
位置づけ | 重要性に基づく簡便的な代替的取扱い(第97項・第98項(2)) |
原則 | 支配の移転時(検収時等)に収益認識 |
特例 | 国内販売で出荷〜検収が通常の期間なら出荷時等での認識可 |
要件 | 国内販売・通常の期間・重要性・継続適用 |
IFRSとの差異 | IFRSには同種の特例がなく、連結で差異が生じ得る |
出荷基準は長年の日本の実務に配慮した特例ですが、適用には「国内販売」「通常の期間」という要件があります。自社が採用している認識基準が代替的な取扱いの要件を満たしているか、また連結上IFRSとの差異が生じないかを、あらためて確認しておくことをおすすめします。