はじめに

収益認識の5ステップ(基準第17項)のうち、ステップ4にあたるのが「契約における履行義務に取引価格を配分する」です。ステップ2で複数の履行義務を識別し、ステップ3で取引価格を算定した後、その取引価格を各履行義務にどう割り振るかを決めるのがこのステップです。

複数の財・サービスをセット価格で販売する場合、いくらをどの履行義務に配分するかによって、各履行義務の収益認識のタイミングと金額が変わります。その配分の物差しになるのが「独立販売価格」です。

本記事では、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」第65項から第76項に基づき、取引価格の配分と独立販売価格の見積りを実務の流れに沿って解説します。

概要

取引価格の配分は、独立販売価格を起点に次の流れで進みます。

1. 各履行義務の独立販売価格を把握(観察 or 見積り)
    ↓
2. 直接観察できない場合は見積方法で算定(第69項)
    ↓
3. 独立販売価格の比率で取引価格を配分(第66項)
    ↓
4. 値引きがある場合の配分(比例配分 or 特定の履行義務へ)(第70項・第71項)
    ↓
5. 変動対価がある場合の配分(第72項)

ここで「独立販売価格」とは、財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいいます(基準第9項)。

具体的な会計処理

ステップ1:独立販売価格の比率で配分する原則を押さえる

第66項は、財又はサービスの独立販売価格の比率に基づき、契約において識別したそれぞれの履行義務に取引価格を配分すると定めています。独立販売価格は、契約における取引開始日において算定します。

なお、契約に単一の履行義務しかない場合には、第68項から第73項の定めを適用しません(第67項)。配分が問題になるのは、複数の履行義務がある場合です。

ステップ2:独立販売価格を見積る(直接観察できない場合)

財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合には、市場の状況、企業固有の要因、顧客に関する情報等、合理的に入手できるすべての情報を考慮して、独立販売価格を見積ります(第69項)。代表的な見積方法は次の3つです。

見積方法

考え方

適している状況

調整後市場評価アプローチ

財・サービスが販売される市場の価格を見積り、自社の要因を踏まえて調整する

同種の財・サービスの市場価格が参照できる

予想コストに利益相当額を加算するアプローチ

履行義務の充足に要する予想コストを見積り、適切な利益相当額を加算する

コストが見積りやすく、市場価格が乏しい

残余アプローチ

取引価格の総額から、他の財・サービスについて観察可能な独立販売価格の合計を控除した残額を独立販売価格とする

価格の変動幅が大きい、または価格が未確定

残余アプローチは、独立販売価格の変動性が高い場合等に限って用いることができる方法であり、無条件に使えるわけではない点に留意します。

ステップ3:独立販売価格の比率で配分する(数値例)

設例:製品A(独立販売価格 600,000円)、製品B(独立販売価格 300,000円)、製品C(独立販売価格 100,000円)をまとめて取引価格900,000円で販売した。独立販売価格の合計は1,000,000円。

各履行義務への配分額は、独立販売価格の比率で計算します。

履行義務

独立販売価格

構成比

配分後の取引価格(900,000円を配分)

製品A

600,000

60%

540,000

製品B

300,000

30%

270,000

製品C

100,000

10%

90,000

合計

1,000,000

100%

900,000

ステップ4:値引きを配分する

上記設例のように、独立販売価格の合計額(1,000,000円)が取引価格(900,000円)を上回る場合、その差額100,000円は顧客に対する「値引き」と考えられます。第70項では、この値引きは原則として契約におけるすべての履行義務に対して比例的に配分すると定めています(上記の比率配分がこれにあたります)。

ただし第71項では、次の(1)から(3)の要件のすべてを満たす場合には、値引きを契約における一部の履行義務(特定の財・サービスの束)にのみ配分すると定めています。

要件(第71項)

内容(要旨)

(1)

契約における別個の財・サービス(あるいはその束)のそれぞれを、通常、単独で販売していること

(2)

当該別個の財・サービスのうちの一部を束にしたものについても、通常、それぞれの独立販売価格から値引きして販売していること

(3)

(2)における財・サービスの束のそれぞれに対する値引きが、当該契約の値引きとほぼ同じであり、それぞれの束に含まれる財・サービスを評価することにより、当該契約の値引き全体がどの履行義務に対するものかについて観察可能な証拠があること

これらをすべて満たす場合には、値引きをすべてに比例配分するのではなく、観察可能な証拠に基づき特定の履行義務にのみ配分します。

ステップ5:変動対価を配分する

取引価格に変動対価(第50項以下)が含まれる場合、第72項では、次の(1)及び(2)の要件のいずれも満たす場合に、変動対価及びその事後的な変動のすべてを、特定の履行義務又は単一の履行義務に含まれる別個の財・サービスにのみ配分すると定めています。

要件(第72項)

内容(要旨)

(1)

変動性のある支払の条件が、当該履行義務を充足するための活動や当該別個の財・サービスの移転に個別に関連していること

(2)

契約における履行義務及び支払条件のすべてを考慮した場合、変動対価の額のすべてを当該履行義務又は別個の財・サービスに配分することが、取引価格の配分の目的に整合すること

第72項の要件を満たさない残りの取引価格については、第65項から第71項の定めに従って配分します(第73項)。

ステップ6:仕訳例で確認する

ステップ3の設例で、製品A・Bは契約時に引渡し済み(一時点で支配移転)、製品Cは翌期に引渡し予定とします。代金900,000円は契約時に現金で受領。

(借方)現金預金   900,000   (貸方)売上高(製品A)   540,000
                            (貸方)売上高(製品B)   270,000
                            (貸方)契約負債(製品C)   90,000

製品Cに配分された90,000円は、引渡し(支配移転)まで契約負債として計上し、翌期に収益化します。

(翌期・製品C引渡し時)
(借方)契約負債   90,000   (貸方)売上高(製品C)   90,000

留意点

  • 取引開始日に算定:独立販売価格は契約における取引開始日に算定する。後発的な価格変動を理由に遡って配分をやり直さない(取引価格の事後的な変動は第74項以下で別途処理)
  • 残余アプローチは限定的:残余アプローチは独立販売価格の変動性が高い場合等に限って認められる方法であり、安易に「差額」を独立販売価格とみなすべきではない
  • 値引きの配分は要件確認が必須:原則は全履行義務への比例配分。特定の履行義務にのみ配分するには第71項の3要件をすべて満たし、観察可能な証拠が必要
  • 変動対価の個別配分:第72項の要件を満たさない変動対価は、他の取引価格と同様に独立販売価格の比率で配分する(第73項)
  • 単一履行義務は配分不要:契約に履行義務が1つしかなければ配分の論点は生じない(第67項)。ただし第32項(2)の一連の別個の財・サービスへの変動対価の配分等には留意

まとめ

取引価格の配分(ステップ4)のポイントを整理すると次のとおりです。

ステップ

処理内容

根拠

1. 原則

独立販売価格の比率で各履行義務に配分

第66項

2. 見積り

直接観察できない場合は調整後市場評価/予想コスト+利益/残余アプローチ

第69項

3. 値引き

原則は全履行義務に比例配分、要件充足時は特定の履行義務へ

第70項・第71項

4. 変動対価

要件充足時は特定の履行義務へ、満たさなければ比率配分

第72項・第73項

取引価格の配分は、「独立販売価格という物差しで取引価格を割り振る」作業です。まずは自社の主要なセット販売・複合契約について、各履行義務の独立販売価格が直接観察できるかを確認し、観察できないものは見積方法を定めておくことが、配分実務を安定させる第一歩となります。