はじめに

ソフトウェアの利用許諾、フランチャイズ権、商標の使用許諾、特許のライセンス供与など、知的財産の使用を顧客に許諾する取引は、SaaS・コンテンツ・製造業など幅広い業種で発生します。これらは「ライセンスの供与」として、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」の枠組みのなかで収益認識のタイミングを判定する必要があります。

ライセンス取引の難しさは、(1)ライセンスが他の財・サービスと一体なのか独立した約束なのか、(2)独立している場合に収益を契約期間にわたって認識するのか引渡時点で一括認識するのか、という2段階の判定にあります。本記事では、企業会計基準第29号の基本となる5つのステップ(第17項)を出発点に、ライセンス供与に固有の論点を実務の流れに沿って解説します。

概要

企業会計基準第29号は、約束した財又はサービスの顧客への移転を、その対価を反映した金額で収益認識することを基本原則とし(第16項)、次の5ステップを適用するものとしています(第17項)。

ステップ1:顧客との契約を識別する(第19項〜第31項)
    ↓
ステップ2:契約における履行義務を識別する(第32項〜第34項)
    ↓
ステップ3:取引価格を算定する(第47項〜第64項)
    ↓
ステップ4:取引価格を履行義務に配分する(第65項〜第76項)
    ↓
ステップ5:履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する(第35項〜第46項)

ライセンス供与は、このうち主にステップ2(別個の履行義務か否か)とステップ5(一定の期間か一時点か)に固有の論点が集中します。判定の流れは次のとおりです。

1. ライセンスは他の財・サービスと別個か?(第34項)
    ├─ 別個でない → 一括して単一の履行義務として収益認識
    └─ 別個である → 2へ
        ↓
2. アクセス権か、使用権か?
    ├─ アクセス権(一定の期間)→ 進捗度に応じて期間配分
    └─ 使用権(一時点)→ 使用開始時点で一括認識
        ↓
3. 対価が売上高・使用量ベースのロイヤルティか?
    └─ Yes → 売上・使用が発生した時に収益認識(例外)

具体的な会計処理

ステップ1:ライセンスが「別個」か否かを判定する

履行義務とは、顧客との契約において、別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)等を顧客に移転する約束をいいます(第7項)。契約における取引開始日に、約束した財又はサービスを評価し、別個のものか否かを判定します(第32項)。

財又はサービスが「別個」であるためには、第34項の次の2要件をいずれも満たす必要があります。

要件

内容(第34項)

(1) 単独での便益享受可能性

当該財又はサービスから単独で、あるいは容易に利用できる他の資源と組み合わせて、顧客が便益を享受できること

(2) 区分して識別可能であること

当該財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できること

ライセンスが他の財・サービス(例:ライセンスと不可分に結びついたソフトウェアの更新・サポート、製造を伴う特許供与等)と別個でない場合は、それらを結合して単一の履行義務とし、その充足パターンに従って収益を認識します。一方、ライセンス単独で顧客が便益を享受でき、他の約束と区分できる場合は、ライセンスを独立した履行義務として扱います。

:ソフトウェアの永続ライセンス(顧客が自社環境で使用)と、それとは別契約・別料金の任意の保守サポートを提供する場合、両者はそれぞれ別個の履行義務となり得ます。

ステップ2:アクセス権かライセンス使用権かを区分する

ライセンスが別個の履行義務である場合、次にその性質を判定します。これは、履行義務が「一定の期間にわたり充足されるもの」か「一時点で充足されるもの」かの判定(第35項〜第39項)をライセンスに当てはめたものです。

区分

性質

収益認識の時期

知的財産にアクセスする権利(アクセス権)

ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利を顧客に提供する

一定の期間にわたり、進捗度に応じて認識(第41項)

知的財産を使用する権利(ライセンス使用権)

ライセンスを供与する時点で存在する企業の知的財産を使用する権利を顧客に提供する

一時点(使用権の移転時点)で認識(第39項)

アクセス権に該当するのは、契約期間にわたり、企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが見込まれ、その活動が顧客に直接的な影響を与え、かつその活動の結果として顧客が便益を享受する場合です。たとえば、ブランド価値の維持・向上活動を継続するフランチャイズ商標や、随時アップデートされ続けることが前提のコンテンツ配信ライセンスなどが典型です。

これに対し、供与時点で固定された知的財産(例:完成済みの映画の上映権、既存の楽曲・特許の使用許諾)は、ライセンス使用権として一時点で収益認識します。

第38項では、次のいずれかを満たす場合に資産に対する支配が一定の期間にわたり顧客へ移転し、履行義務が一定の期間にわたり充足されるとしています。

  • (1) 企業が義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること(第38項(1))
  • (2) 企業が義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、その資産を顧客が支配すること(第38項(2))
  • (3) 一定の要件をいずれも満たすこと(第38項(3))

これらをいずれも満たさない場合は、一時点で充足される履行義務として、支配を顧客に移転した時点で収益を認識します(第39項)。

ステップ3:取引価格を算定・配分する

取引価格とは、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額(第三者のために回収する額を除く)です(第8項、第47項)。ライセンス取引では、固定のライセンス料に加え、変動対価(第50項〜第55項)が含まれることが多い点に注意します。

取引価格は、原則として独立販売価格の比率に基づき各履行義務に配分します(第65項、第66項)。ライセンスと保守サポートが別個の履行義務である場合、それぞれの独立販売価格の比率で取引価格を配分します。独立販売価格を直接観察できない場合は、市場の状況・企業固有の要因等を考慮して見積ります(第69項)。

仕訳例:ソフトウェアのライセンス使用権(独立販売価格800万円)と1年間の保守サポート(独立販売価格200万円)を一括1,000万円で契約し、当期首に対価を現金で受領、ライセンスを引き渡した場合

ライセンスは一時点(引渡時)、保守は一定の期間(1年)にわたり認識します。

(契約時:対価の受領)
(借方)現金預金  10,000,000  (貸方)契約負債  10,000,000

(ライセンス引渡時:使用権800万円を一括認識)
(借方)契約負債  8,000,000  (貸方)売上高(ライセンス)  8,000,000

(決算時:保守200万円のうち当期経過分。1年契約・期首開始で全額当期計上の例)
(借方)契約負債  2,000,000  (貸方)売上高(保守サービス)  2,000,000

ステップ4:売上高・使用量に基づくロイヤルティの例外を適用する

ライセンス取引に固有の重要論点が、売上高または使用量に基づくロイヤルティの取扱いです。これは変動対価の見積りに関する原則(第50項〜第54項)の例外として位置づけられます。

通常、変動対価は、発生し得る対価の最頻値法または期待値法により見積り(第51項)、その見積りのうち、収益が著しく減額される可能性が高い部分を除いた額を取引価格に含めます(第54項:変動対価の見積りの制限)。

これに対し、知的財産のライセンスに対して受け取る売上高・使用量に基づくロイヤルティについては、契約開始時点での見積りを行わず、次のいずれか遅い方が発生する時に収益を認識します。

認識タイミング

内容

(1) 売上・使用が発生する時

顧客の売上が計上された、または知的財産が使用された時

(2) 履行義務の充足(または一部充足)時

ロイヤルティの一部または全部が配分された履行義務が充足された時

つまり、ロイヤルティ収益は将来の売上・使用を見積って前倒し計上するのではなく、実際に顧客側で売上・使用が発生した期に認識します。

仕訳例:特許ライセンスを供与し、顧客の関連製品売上の5%をロイヤルティとして四半期ごとに受領する契約。当四半期の顧客売上が6,000万円と確定し、ロイヤルティ300万円を翌月受領する場合

(売上・使用が発生した四半期末)
(借方)売掛金(未収ロイヤルティ)  3,000,000  (貸方)売上高(ロイヤルティ)  3,000,000

(翌月:入金時)
(借方)現金預金  3,000,000  (貸方)売掛金(未収ロイヤルティ)  3,000,000

固定ライセンス料部分とロイヤルティが併存する場合、固定部分はステップ2で判定した認識時期(一時点/一定の期間)で計上し、ロイヤルティ部分は上記の例外に従って売上・使用の発生に応じて計上します。

留意点

  • 別個か否かの判定が出発点:ライセンスが他の財・サービスと不可分の場合(例:製造ノウハウと一体の特許供与)、ライセンス単独では収益認識せず、結合した単一の履行義務の充足パターンで認識する。判定を誤ると認識時期が大きくずれる
  • アクセス権/使用権の判定根拠を文書化:契約期間にわたる企業の継続的活動(ブランド維持、アップデート等)の有無が分岐点となる。判定の根拠と前提を契約ごとに整理しておくと監査対応がスムーズ
  • ロイヤルティ例外の範囲:売上高・使用量に基づくロイヤルティの認識例外は知的財産のライセンスに係るものが対象。固定対価や、ライセンス以外の財・サービスへの配分額には原則どおり変動対価のルールが適用される
  • 契約負債・契約資産の管理:対価を先に受領するライセンス取引では契約負債(前受)が生じ、収益を先に認識する場合は契約資産が生じる。期首・期末残高の把握と注記が必要
  • 重要な金融要素:複数年分のライセンス料を前払で受領する等、支払時期と移転時期の間に重要な金融要素が含まれる場合は、金利相当分の調整を検討する(第56項〜第58項)

まとめ

ライセンス供与の収益認識は、次の判定の流れに集約されます。

ステップ

判定内容

根拠条項

1. 別個性の判定

ライセンスが他の財・サービスと別個か

第32項〜第34項

2. 性質の区分

アクセス権(一定の期間)か使用権(一時点)か

第35項〜第39項

3. 取引価格の算定・配分

固定対価・変動対価を独立販売価格比で配分

第47項〜第76項

4. ロイヤルティ例外

売上高・使用量ベースは売上・使用の発生時に認識

変動対価の例外(第50項〜第54項関連)

ライセンス取引は、まず「別個か否か」、次に「アクセス権か使用権か」を判定し、最後に「ロイヤルティの例外」を確認する、という3段階で整理すると全体像が掴めます。自社のライセンス契約について、継続的な関与活動の有無と対価の構成(固定/変動)を棚卸しするところから始めてみてください。