はじめに

収益認識の5ステップ(基準第17項)のうち、ステップ2にあたるのが「契約における履行義務の識別」です。ステップ1で契約を識別した後、その契約の中に「顧客への約束」がいくつ含まれているかを切り出す作業がこのステップです。

履行義務をどう識別するかは、その後の収益認識の単位(いくらを、いつ計上するか)を決定づけます。一見ひとつの取引に見えても、複数の履行義務に分解すべき場合があり、逆に別々に見える要素が結合してひとつの履行義務になる場合もあります。

本記事では、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」第32項から第34項に基づき、「別個」の判定を中心に履行義務の識別を実務の流れに沿って解説します。

概要

履行義務の識別は、契約における取引開始日に、約束した財又はサービスを評価することから始まります(第32項)。その流れは次のとおりです。

1. 契約に含まれる「顧客への約束」を洗い出す
    ↓
2. それぞれが「別個」かどうかを2要件で判定(第34項)
    ↓
3-a. 別個 → 独立した履行義務として識別
3-b. 別個でない → 他の財・サービスと結合し1つの履行義務に
    ↓
4. 特性が実質同じで移転パターンも同じ連続 →
   「一連の別個の財又はサービス」として単一の履行義務(第32項(2)・第33項)

履行義務とは、顧客との契約において、(1) 別個の財又はサービス(あるいは別個の財又はサービスの束)、または (2) 一連の別個の財又はサービス、のいずれかを顧客に移転する約束をいいます(基準第7項)。

具体的な会計処理

ステップ1:契約に含まれる約束を洗い出す

まず、契約における取引開始日において、顧客との契約で約束した財又はサービスを評価し、顧客に移転する約束のそれぞれについて、履行義務として識別します(第32項)。

明示的に契約書に記載された約束だけでなく、取引慣行等から顧客が期待する暗黙の約束も対象になり得ます。たとえば次のような要素が「約束」として候補に挙がります。

約束の例

内容

物品の販売

製品・商品の引渡し

据付・設置サービス

機器の設置作業

保守・サポート

一定期間の保守契約

ソフトウェアのライセンス

使用権の供与

追加の財・サービスを取得するオプション

重要な権利を顧客に付与する場合

ステップ2:「別個」かどうかを2要件で判定する

洗い出した約束のそれぞれについて、「別個の財又はサービス」に該当するかを判定します。第34項では、次の(1)及び(2)の要件をいずれも満たす場合に「別個」とすると定めています。

要件

内容(第34項)

判断の視点

(1) 便益享受の観点

当該財又はサービスから単独で顧客が便益を享受することができること、あるいは、当該財又はサービスと顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて顧客が便益を享受することができること

その財・サービス単体に価値があるか

(2) 契約の観点

当該財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できること

他の約束と切り離して識別できるか

要件(1)(それ自体で便益を享受できる)の考え方

顧客がその財・サービスを単独で、または市場で容易に手に入る他の資源と組み合わせて使うことで便益を得られるなら、要件(1)を満たします。たとえば一般に市販されている標準品は単独で便益を享受しやすいといえます。

要件(2)(契約の観点で区分して識別できる)の考え方

要件(2)は、契約の文脈において他の約束と区分できるかを見ます。たとえば、複数の財・サービスを統合して顧客が求めた「結合後のアウトプット」を提供する約束である場合、個々の財・サービスを統合・カスタマイズするための重要なサービスを提供している場合、または相互依存性・相互関連性が高い場合には、区分して識別できず、要件(2)を満たさないことがあります。

ステップ3:別個でない場合は結合する

要件(1)・(2)のいずれかを満たさない財・サービスは、それ単独では履行義務にならず、他の財・サービスと結合して、ひとつの履行義務として処理します。第32項(1)にいう「別個の財又はサービスの束」がこれにあたります。

たとえば、建物の設計・調達・建設を一体として請け負い、各要素を統合した成果物(完成した建物)を引き渡す契約では、設計・調達・建設は相互に強く関連し合うため区分して識別できず、全体でひとつの履行義務となることが考えられます。

ステップ4:一連の別個の財又はサービスを判定する

第32項(2)では、「一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じであるもの)」をひとつの履行義務として識別すると定めています。具体的には、第33項の次の2要件をいずれも満たす場合です。

要件(第33項)

内容

(1)

一連の別個の財又はサービスのそれぞれが、第38項における一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たすこと

(2)

第41項及び第42項に従って、履行義務の充足に係る進捗度の見積りに、同一の方法が使用されること

たとえば、複数年にわたる清掃サービスや定型的な反復サービスのように、毎期実質的に同じサービスを同じパターンで提供する契約は、個々の役務を別々の履行義務とせず、全体を単一の履行義務として扱います。

ステップ5:仕訳イメージで確認する

履行義務の識別の違いが収益計上にどう影響するかを、簡単な数値例で確認します。

設例:製品本体(独立販売価格 800,000円)と、本体とは独立して便益を享受でき契約上も区分できる2年間の保守サービス(独立販売価格 200,000円)をセットで合計1,000,000円で販売した。代金は契約時に現金で受領。

この場合、製品本体と保守サービスはいずれも第34項の2要件を満たし、2つの履行義務として識別します。取引価格1,000,000円を独立販売価格の比率(800,000:200,000)で配分します(取引価格の配分はステップ4の論点。詳細は別記事参照)。

契約時(代金受領、本体は引渡し済み・保守は未提供)の仕訳例

(借方)現金預金   1,000,000   (貸方)売上高(製品本体)   800,000
                              (貸方)契約負債(保守サービス)  200,000

保守サービス分の200,000円は、契約時には収益とせず契約負債(前受)として計上し、サービス提供期間(2年)にわたって収益化します。仮に製品本体と保守を区分せず単一の履行義務と誤って判断すると、収益認識のタイミングを誤ることになります。

留意点

  • 取引開始日の評価が起点:履行義務の識別は契約における取引開始日に行う(第32項)。後続の処理(取引価格の配分・収益認識のタイミング)の前提となるため、ここでの判断を誤ると全体に影響する
  • 重要性等に関する代替的取扱い:基準は適用指針に重要性等に関する代替的な取扱いを定めており(第18項)、約束した財・サービスが顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合などには、履行義務として識別しないことが認められる場合がある
  • オプションの付与:将来の財・サービスを取得するオプションを顧客に付与し、それが重要な権利を提供する場合には、当該オプション自体を独立した履行義務として識別する必要がある
  • 2要件は「いずれも満たす」:第34項は(1)と(2)の両方を満たすことを求める。一方だけでは「別個」とならない点に注意
  • 契約変更との関係:契約変更で別個の財・サービスが追加され、その独立販売価格相当で価格が増額される場合は、独立した契約として処理する(第30項)

まとめ

履行義務の識別(ステップ2)のポイントを整理すると次のとおりです。

ステップ

処理内容

根拠

1. 約束の洗い出し

契約に含まれる財・サービスの約束を評価

第32項

2. 別個の判定

(1) 単独で便益を享受できる かつ (2) 契約の観点で区分して識別できる

第34項

3. 結合

いずれかを満たさなければ他と結合し1つの履行義務に

第32項(1)

4. 一連の判定

特性・移転パターンが同じなら単一の履行義務

第32項(2)・第33項

履行義務の識別は、「何を、いくつの単位で約束しているか」を切り出す作業です。「単独で便益を享受できるか」「契約の観点で他と区分して識別できるか」という第34項の2要件を軸に、まずは自社の主要な契約類型ごとに履行義務の数を棚卸しするところから始めてみてください。