はじめに
繰延税金資産は、将来の税負担を軽減する効果(回収可能性)がある範囲でのみ計上できます。回収可能性が見込めない部分は資産から控除しますが、この控除額を「評価性引当額」と呼びます。
評価性引当額は、企業の将来の収益力や課税所得の見通しを反映するため、財務諸表利用者にとって繰延税金資産の質を判断する重要な情報です。そこで企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」では、評価性引当額に関する注記が大幅に拡充されました。
本記事では、評価性引当額の意義と、第28号で追加された注記事項の作成実務を、記載例とともに解説します。
概要
評価性引当額に関する開示は、以下の流れで整理できます。
1. 繰延税金資産の発生原因別の主な内訳を集計
↓
2. 各項目の回収可能性を検討し、評価性引当額を算定
↓
3. 発生原因別注記(総額 − 評価性引当額 = 純額)を作成
↓
4. 評価性引当額の内訳(繰越欠損金分/それ以外)を区分(第28号第4項)
↓
5. 評価性引当額に重要な変動があればその主な内容を注記
↓
6. 重要な繰越欠損金がある場合は繰越期限別の数値情報を注記(第28号第5項)
企業会計基準第28号は、平成30年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されています(第28号第6項)。
具体的な会計処理
ステップ1:評価性引当額の意義を押さえる
繰延税金資産は、将来減算一時差異や税務上の繰越欠損金に対し、将来の課税所得と相殺できる範囲で計上します。将来の課税所得が十分に見込めない等の理由で回収可能性がない部分は、繰延税金資産から控除します。この控除額が評価性引当額です。
計上できる繰延税金資産(純額)
= 将来減算一時差異等 × 法定実効税率(総額)
− 回収可能性がないとして控除する額(評価性引当額)
仕訳イメージ:将来減算一時差異5,000万円(実効税率30%、税効果額1,500万円)のうち、回収可能と判断した部分が1,100万円、回収不能と判断した部分が400万円の場合
(借方)繰延税金資産 11,000,000 (貸方)法人税等調整額 11,000,000
回収不能と判断した400万円は、そもそも繰延税金資産として計上しません。この計上しなかった400万円が、注記上の「評価性引当額」として開示されます。
ステップ2:発生原因別の注記を作成する(注解(注8))
税効果会計基準注解(注8)に基づき、繰延税金資産および繰延税金負債の発生原因別の主な内訳を注記します。第28号第4項では、注記にあたり「繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)」を記載することが定められています。
代表的な記載形式は次のとおりです。
(繰延税金資産及び繰延税金負債の発生原因別の主な内訳)
繰延税金資産
税務上の繰越欠損金 ×××
退職給付に係る負債 ×××
減価償却超過額 ×××
貸倒引当金 ×××
その他 ×××
繰延税金資産小計 ×××
評価性引当額 △××× ← 控除
繰延税金資産合計 ×××
繰延税金負債
その他有価証券評価差額金 △×××
繰延税金負債合計 △×××
繰延税金資産(負債)の純額 ×××
ステップ3:評価性引当額の内訳を開示する(第28号第4項・注解(注8)(2))
第28号で新たに追加された開示が、評価性引当額の「内訳」です。注解(注8)(1)では、評価性引当額のうち、税務上の繰越欠損金に係る額と、将来減算一時差異等の合計に係る額とに区分して記載することが求められます。
区分 | 内容 |
|---|---|
繰越欠損金に係る評価性引当額 | 税務上の繰越欠損金に対する繰延税金資産から控除した額 |
将来減算一時差異等に係る評価性引当額 | 上記以外の将来減算一時差異等から控除した額 |
記載例:
(評価性引当額の内訳)
税務上の繰越欠損金に係る評価性引当額 ×××
将来減算一時差異等の合計に係る評価性引当額 ×××
評価性引当額 ×××
この内訳開示により、財務諸表利用者は、回収可能性を見込めない金額が「過去の欠損金」由来なのか「一時差異」由来なのかを区別して評価できます(第28号第23項・第29項参照)。
ステップ4:評価性引当額の重要な変動を注記する(注解(注8)(2))
注解(注8)(2)では、繰延税金資産から控除された額(評価性引当額)に重要な変動が生じている場合、その主な変動の内容を注記することが求められます。第28号第33項では、評価性引当額の合計額に重要な変動が生じている場合は税負担率に重要な影響が生じている可能性があるとして、定性的な情報の注記を求めています。
記載例:
(評価性引当額の変動の主な内容)
当連結会計年度において、連結子会社A社の業績回復に伴い将来の
課税所得が見込まれることとなったため、評価性引当額が×××百万円
減少しております。
ステップ5:繰越欠損金の数値情報を注記する(第28号第5項・注解(注9))
第28号第5項は税効果会計基準注解(注9)を追加し、税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を計上している場合等に、次の数値情報の注記を求めています。
注記項目 | 内容 |
|---|---|
繰越期限別の繰越欠損金額 | 繰越期限ごとの税務上の繰越欠損金(法定実効税率を乗じた額)(注解(注9)(1)) |
同左に係る評価性引当額 | 上記繰越欠損金に対応する評価性引当額 |
同左に係る繰延税金資産 | 評価性引当額控除後の繰延税金資産 |
回収可能と判断した理由 | 重要な繰延税金資産を計上している場合の定性的説明(注解(注9)(2)) |
記載例:
(税務上の繰越欠損金に係る数値情報)
1年内 1年超2年内 ... 5年超 合計
税務上の繰越欠損金 ××× ××× ××× ×××
評価性引当額 △××× △××× △××× △×××
繰延税金資産 ××× ××× ××× ×××
(注)税務上の繰越欠損金×××百万円(法定実効税率を乗じた額)
について繰延税金資産×××百万円を計上しております。当該繰延
税金資産を計上した税務上の繰越欠損金は、連結子会社B社におい
て生じたものであり、将来の課税所得の見込みにより回収可能と
判断しております。
注解(注9)(2)の定性的情報は、繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由を記載するものです(第28号第40項・第44項・第45項参照)。
留意点
- 連結合算による相殺の影響:連結財務諸表上の評価性引当額は複数の連結会社の数値が合算されるため、重要な変動の分析にあたっては会社単位の状況にも留意する(第28号第34項)
- 重要性の判断:繰越欠損金の数値情報や定性的情報は、企業が置かれた状況によって重要性が異なるため、一律の基準ではなく財務諸表利用者の意思決定への影響を踏まえて判断する(第28号第31項)
- 個別と連結の双方:注記は連結財務諸表だけでなく個別財務諸表でも求められる。連結を作成している場合は個別での重複記載の要否を確認する
- 回収可能性適用指針との整合:評価性引当額の算定そのものは「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(企業会計基準適用指針第26号)の企業分類等に基づく。注記値と回収可能性の判断プロセスを整合させる
- 税率変更との関係:評価性引当額は法定実効税率を用いて算定するため、税率変更があった年度は再計算後の税率で評価する(別記事「税率変更・税制改正時の繰延税金の再計算」参照)
まとめ
評価性引当額の注記を整理すると、以下のステップに集約されます。
ステップ | 処理内容 | 根拠(第28号) |
|---|---|---|
1. 意義の把握 | 回収可能性のない繰延税金資産の控除額 | — |
2. 発生原因別注記 | 総額−評価性引当額=純額を記載 | 第4項・注解(注8)(1) |
3. 内訳開示 | 繰越欠損金分/一時差異等分に区分 | 第4項・注解(注8)(1) |
4. 重要な変動 | 主な変動内容を定性的に注記 | 注解(注8)(2)・第33項 |
5. 繰越欠損金情報 | 繰越期限別の数値情報・回収理由 | 第5項・注解(注9) |
評価性引当額の注記は、第28号により「総額からの控除額」という単純な開示から、内訳・変動・繰越欠損金という多面的な開示へと拡充されました。回収可能性の判断プロセスと注記値を一貫させることが、開示の信頼性を高める鍵となります。まずは自社の発生原因別内訳から評価性引当額を区分集計するところから着手してみてください。