はじめに
繰延税金資産を計上できるかどうか(回収可能性)は、将来減算一時差異や繰越欠損金が「将来の課税所得と相殺できるか」で決まります。この「いつ・いくら相殺できるか」を見積もる作業が、スケジューリングです。
スケジューリングは、繰延税金資産の回収可能性判断の中核であり、企業会計基準第28号が拡充した評価性引当額や繰越欠損金の注記(第5項・注解(注9)の繰越期限別の数値情報等)の基礎データにもなります。
本記事では、一時差異等のスケジューリングの進め方を、管理表の設計を含めて実務の手順に沿って解説します。
概要
スケジューリングの全体像は次のとおりです。
1. 一時差異・繰越欠損金を洗い出す
↓
2. 将来減算 / 将来加算 / スケジューリング不能 に分類
↓
3. 各一時差異の解消時期(年度)を見積もる
↓
4. 解消年度ごとに将来加算と将来減算を相殺
↓
5. 相殺しきれない減算差異を課税所得・繰越欠損金と照合
↓
6. 回収可能と判断した額に税率を乗じ繰延税金資産を計上
↓
7. 回収不能分を評価性引当額として控除
回収可能性の判断は、企業の収益力等に応じた企業分類(回収可能性適用指針)と組み合わせて行いますが、本記事ではスケジューリングそのものの実務に焦点を当てます。
具体的な会計処理
ステップ1:一時差異等を洗い出して分類する
まず、当期末に存在するすべての一時差異と繰越欠損金を洗い出し、性質ごとに分類します。
区分 | 内容 | 解消時の効果 | 代表例 |
|---|---|---|---|
将来減算一時差異 | 解消年度に課税所得を減算 | 税負担を軽減(繰延税金資産) | 賞与引当金、退職給付引当金、貸倒引当金繰入超過、減価償却超過、未払事業税 |
将来加算一時差異 | 解消年度に課税所得を加算 | 税負担を増加(繰延税金負債) | その他有価証券評価差益、圧縮積立金、特別償却準備金 |
税務上の繰越欠損金 | 繰越期間内の課税所得と相殺 | 税負担を軽減(繰延税金資産) | 過年度の欠損金 |
ステップ2:解消時期を見積もる
各一時差異について、将来どの事業年度に税務上解消(益金・損金算入)するかを見積もります。
- 賞与引当金:翌期の支給時に損金算入 → 翌期に解消
- 未払事業税:翌期の納付時に損金算入 → 翌期に解消
- 退職給付引当金:将来の退職金支給に応じて長期にわたり解消
- 減価償却超過額:耐用年数経過や除却まで段階的に解消
- その他有価証券評価差額金:売却時に解消(時期の特定が困難な場合あり)
ステップ3:スケジューリング表を作成する
解消年度を横軸にとり、一時差異の解消額を配置します。これがスケジューリング管理表の中核です。
(スケジューリング管理表:将来減算一時差異) 単位:百万円
項目 翌1年 2年 3年 4年 5年 5年超 計
賞与引当金 50 - - - - - 50
未払事業税 20 - - - - - 20
減価償却超過額 8 8 8 8 8 40 80
退職給付引当金 5 5 5 5 5 175 200
減算差異 解消額計 83 13 13 13 13 215 350
(将来加算一時差異)
特別償却準備金 10 10 10 - - - 30
加算差異 解消額計 10 10 10 0 0 0 30
ステップ4:将来加算と将来減算を相殺する
解消年度ごとに、将来減算一時差異の解消額を、同一年度の将来加算一時差異の解消額および課税所得の見積額と相殺します。
(年度別の相殺:単位 百万円)
年度 将来減算 将来加算 課税所得見積 相殺後の回収可能減算
翌1年 83 10 60 83(全額回収可能)
2年 13 10 60 13
...
将来加算一時差異は、その解消により課税所得を生み出すため、同一年度に解消する将来減算一時差異の回収可能性を裏付ける重要な要素です。
ステップ5:繰越欠損金との関係を整理する
将来減算一時差異が解消した結果として税務上の欠損金が生じる場合、その欠損金は繰越期間内の将来の課税所得と相殺できる範囲で回収可能と判断します。繰越期限別に管理し、第28号注解(注9)が求める繰越期限別の数値情報の作成につなげます。
(繰越欠損金の繰越期限別管理) 単位:百万円
発生年度 残高 繰越期限 相殺見込課税所得 回収可能額 評価性引当額
X1期 100 X11期まで 70 70 30
X2期 50 X12期まで 50 50 0
ステップ6:スケジューリング不能な一時差異を判定する
解消年度を合理的に見積もれない一時差異を「スケジューリング不能な一時差異」といいます。
例 | 理由 |
|---|---|
時期を特定できない固定資産の減損損失 | 売却・除却時期が未定 |
売却予定のないその他有価証券の評価差損 | 売却時期が未定 |
役員退職慰労引当金(時期未定) | 退任時期が未定 |
スケジューリング不能な将来減算一時差異は、原則として回収可能性なし(=評価性引当額として控除)とします。ただし企業分類によっては一部回収可能と判断できる場合もあるため、回収可能性適用指針の分類に沿って判定します。
ステップ7:繰延税金資産を計上する
回収可能と判断した将来減算一時差異・繰越欠損金に法定実効税率を乗じ、繰延税金資産を計上します。回収不能分は計上せず、評価性引当額として注記します。
仕訳例:回収可能と判断した将来減算一時差異の解消額合計が3億2,000万円、実効税率30%の場合(前期末繰延税金資産が8,000万円だったとき)
当期末繰延税金資産 = 320,000,000 × 30% = 96,000,000
当期計上額 = 96,000,000 − 80,000,000 = 16,000,000
(借方)繰延税金資産 16,000,000 (貸方)法人税等調整額 16,000,000
留意点
- 将来加算一時差異の解消年度の確認:将来加算一時差異は将来減算の回収可能性を裏付けるが、繰延税金負債が将来減算より先に解消するケースでは相殺できないため、年度の対応関係を必ず確認する
- 課税所得見積りの根拠:将来の課税所得は事業計画と整合させる。過度に楽観的な見積りは評価性引当額の過小計上につながり、監査上も論点になりやすい
- 企業分類との連動:スケジューリング可能期間(おおむね5年等)は回収可能性適用指針の企業分類により異なる。分類変更があった年度は前提を見直す
- 繰越期限の管理:税務上の繰越欠損金には繰越期限があるため、期限切れ見込みの欠損金は回収不能として評価性引当額に計上する
- 管理表の継続性:スケジューリング管理表は前期からの繰越・当期解消・当期発生を区分して更新し、評価性引当額の「重要な変動」(第28号注解(注8)(2))の説明根拠として保管する
まとめ
一時差異等のスケジューリングの実務を整理すると、以下のとおりです。
ステップ | 作業内容 |
|---|---|
1. 洗い出し | 一時差異・繰越欠損金を全件把握 |
2. 分類 | 将来減算/将来加算/スケジューリング不能に区分 |
3-4. 解消・相殺 | 解消年度を見積もり加算と減算を相殺 |
5. 欠損金照合 | 課税所得・繰越欠損金との相殺可能性を判定 |
6. 不能差異 | スケジューリング不能分は原則回収不能 |
7. 計上 | 回収可能額に税率を乗じ繰延税金資産を計上 |
スケジューリングは、繰延税金資産の回収可能性判断と税効果注記(評価性引当額・繰越欠損金)のすべての土台です。年度別の解消額を一覧化した管理表を整備し、課税所得見積りと突き合わせる運用を定着させることが、実務の精度と監査対応力を高めます。まずは主要な一時差異の解消年度を埋めた管理表のたたき台を作ることから始めてみてください。