はじめに

収益認識基準(企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」)が取引価格の算定で考慮する4要素の最後が「顧客に支払われる対価」です(第48項(4))。メーカーや卸売業が小売業者へ支払うリベート(売上割戻)、棚に並べてもらうための販促協賛金やスロッティングフィー、クーポンの精算など、企業が顧客(または顧客の顧客)に対価を支払う取引は数多くあります。

これらを「販売費として費用計上」するのか「売上高のマイナス(取引価格の減額)」とするのかは、損益計算書の売上高そのものに影響する重要な論点です。本記事では、区分の判定、減額する金額、減額の認識時点を、仕訳例とともに解説します。

収益認識基準の適用にあたり、この論点が実務で大きなインパクトを持つのは、従来は「販売促進費」等として販売費及び一般管理費に計上していた支出の一部が、売上高のマイナスに組み替えられる可能性があるためです。組替えによって売上高・売上総利益が減少する一方、販管費も減少するため営業利益への影響は限定的ですが、売上高を経営指標(KPI)や契約条件(売上連動のロイヤルティ等)に用いている企業では、表示区分の変更が思わぬ波及効果を持つことがあります。したがって、自社が顧客に支払う各種の対価を棚卸しし、その性質を一つずつ吟味することが出発点となります。

概要

顧客に支払われる対価の処理は、次の判定フローで進みます。

1. 「顧客に支払われる対価」に該当するかを識別
    ↓
2. 顧客から別個の財・サービスを受け取るか?
    ├─ No  → 取引価格から減額(売上のマイナス)
    └─ Yes → 当該財・サービスを仕入等として処理
              (ただし時価を超える部分は取引価格から減額)
    ↓
3. 取引価格から減額する場合、減額を認識する時点を判定(第64項)

判定の核心は、企業が支払と引き換えに「別個の財またはサービス」を顧客から受け取るかどうかです。

支払の性質

会計処理

別個の財・サービスの対価ではない(純粋な値引き・リベート)

取引価格から減額(売上のマイナス)

別個の財・サービスの対価である

仕入・費用として処理

別個の財・サービスの対価だが時価を超える

時価相当は費用、超過分は取引価格から減額

具体的な会計処理

ステップ1:顧客に支払われる対価を識別する

第63項は、顧客に支払われる対価とは、企業が顧客(あるいは顧客から企業の財・サービスを購入する他の当事者)に対して支払うまたは支払うと見込まれる現金の額や、顧客が企業に対する債務額に充当できるもの(クーポン、クレジット等)を含む、としています。

代表的な例は次のとおりです。

取引

内容

リベート(売上割戻)

一定期間の購入量に応じた割戻金

販促協賛金

小売店の販促活動への協賛・補填

スロッティングフィー

棚(陳列棚)確保のための支払

クーポン・キャッシュバック

最終消費者への返金・値引精算

ここで注意したいのは、第63項の「顧客に支払われる対価」には、直接の取引先(顧客)への支払だけでなく、顧客から企業の財・サービスを購入する他の当事者への支払も含まれる点です。たとえばメーカーが、卸売業者を経由して商品を仕入れる小売業者に対して直接リベートやクーポン精算を行う場合、その小売業者がメーカーにとって直接の契約相手でなくても、サプライチェーン上の「顧客」への支払として第63項の対象になり得ます。

ステップ2:別個の財・サービスを受け取るかで区分する

第63項により、顧客に支払われる対価は、顧客から受け取る別個の財またはサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額します。

ケースA:別個の財・サービスの対価でない場合(取引価格から減額)

たとえば、当期の販売10,000,000円に対し、購入量に応じたリベート300,000円を支払う場合(顧客から別個の財・サービスを受け取らない)、リベートは取引価格から減額します。

(借方)売上高  300,000  (貸方)未払金(リベート)  300,000

リベートは販売費ではなく、売上高のマイナスとして処理される点がポイントです。

ケースB:別個の財・サービスの対価である場合(費用処理)

顧客(小売業者)が企業のために実施する広告サービス(時価200,000円)の対価として200,000円を支払う場合、これは別個のサービスの取得であり、通常の費用として処理します。

(借方)販売促進費  200,000  (貸方)現金預金  200,000

ケースC:時価を超える支払

顧客から受け取る別個のサービスの時価が200,000円であるのに、企業が250,000円を支払う場合、時価相当の200,000円は費用、時価を超える50,000円は取引価格からの減額として処理します。

(借方)販売促進費  200,000  (貸方)現金預金  250,000
(借方)売上高    50,000

なお、顧客から受け取る財・サービスの時価を合理的に見積ることができない場合には、支払額の全額を取引価格から減額します。これは、支払が「別個のサービスの対価」なのか「実質的な値引き」なのかを区別できない以上、保守的に全額を売上のマイナスとして扱う、という考え方によります。

3つのケースを整理すると次のとおりです。

ケース

支払の内容

費用処理

取引価格からの減額

A

別個の財・サービスの対価でない(純粋なリベート等)

なし

全額

B

別個の財・サービスの対価(時価相当)

全額

なし

C

別個の財・サービスの対価だが時価を超える

時価相当分

時価超過分

(補足)

別個の財・サービスだが時価を見積れない

なし

全額

ステップ3:減額を認識する時点を判定する

取引価格から減額する場合、その減額を「いつ」収益に反映するかが第64項で定められています。第64項は、顧客に支払われる対価を取引価格から減額する場合には、次の(1)または(2)のいずれか遅い方が発生した時点で(またはその時点以降で)、収益を減額する、としています。

  • (1) 関連する財またはサービスの移転に対する収益を認識する時
  • (2) 企業が対価を支払うか、または支払を約束する時(当該支払が将来の事象を条件とする場合も含み、支払の約束は取引慣行に基づくものも含む)

パターン

減額を認識する時点

先に売上計上、後で支払を約束

支払を約束した時((2)が遅い)

先にリベート支払を約束、後で売上計上

収益を認識する時((1)が遅い)

たとえば、年間購入額が一定額を超えた場合にリベートを支払う契約では、売上計上の都度、支払見込額を見積って取引価格を減額していきます(変動対価としての見積りと併せて処理する)。

具体例で考えます。当期の売上計上ごとに、年間のリベート支払見込率を3%と見積っている場合、各売上計上時に当該見込分を取引価格から減額します。たとえば当月の売上が5,000,000円であれば、次のように処理します。

(借方)売掛金  5,000,000  (貸方)売上高    4,850,000
                          (貸方)返金負債(または未払リベート)  150,000

このように、リベートが将来の購入実績に応じて確定する場合は、変動対価の見積り(最頻値法・期待値法)と見積りの制限(第54項)の枠組みも併せて適用し、著しい減額が生じない可能性が高い範囲で収益を計上します。一方、すでに支払を約束済みで金額が確定しているリベートは、第64項の(2)(支払を約束する時)が満たされているため、関連する収益の認識時点((1))との遅い方で減額を認識します。

第64項の「いずれか遅い方」というルールを具体的に整理すると、次の2つのパターンになります。

パターン

状況

減額を認識する時点

先に収益、後で支払約束

商品をすでに販売・収益計上した後で、追加の販促協賛金の支払を約束

支払を約束した時((2)が遅い)

先に支払約束、後で収益

新規取引開始時に一括のリベートを約束し、その後に商品を順次販売

各商品の収益を認識する時((1)が遅い)

このルールは、減額(売上のマイナス)を、関連する収益の計上と対応させて認識するためのものです。収益がまだ立っていない段階で減額だけを先行させたり、支払の約束もないのに減額を見込んだりしないよう、両方の事象がそろう(遅い方が到来する)まで待つという考え方です。

留意点

  • 売上総利益への影響:リベート等を「販売費」ではなく「売上高の減額」とすることで、売上高・売上総利益が減少する。従来は販売費としていた取引の組替えが、収益認識基準適用時の主要な実務論点
  • 変動対価との関係:将来のリベート支払見込額は変動対価の見積りと連動する。見積りの制限(第54項)の適用も併せて検討する
  • 別個の財・サービスの判定:販促協賛金等が「企業が便益を受ける別個のサービスの対価」といえるか、実態で判断する。形式的な名目ではなく、企業が独立して識別可能な便益を得ているかが基準
  • 時価の見積り:顧客から受け取る財・サービスの時価が見積れない場合は全額を取引価格から減額する(第63項)。時価の根拠資料を整備する
  • 認識時点の管理:第64項の「いずれか遅い方」を取引ごとに管理する必要がある。支払の約束(取引慣行を含む)の成立時点を社内で定義しておく
  • 黙示的な支払の約束:第64項の「支払を約束する時」には、明示的な契約だけでなく取引慣行に基づく黙示的な約束も含まれる。過去の慣行から事実上支払が見込まれる協賛金等は、契約書がなくても減額の対象となり得る
  • 将来事象を条件とする支払:支払が将来の事象(一定数量の達成等)を条件とする場合でも、第64項の対象となる。条件付きの支払見込みを変動対価として見積り、取引価格に反映する
  • 科目区分の社内統一:同種の支払を部署・取引先によって「費用」「売上控除」とバラバラに処理しないよう、区分基準を社内で文書化し統一する。監査・内部統制の観点からも重要

まとめ

顧客に支払われる対価の処理を整理すると、以下のとおりです。

論点

取扱い

根拠

区分

別個の財・サービスの対価でなければ取引価格から減額

第63項

別個の財・サービスの対価

仕入・費用として処理

第63項

時価超過分

時価相当は費用、超過分は取引価格から減額

第63項

時価を見積れない場合

全額を取引価格から減額

第63項

認識時点

収益認識時と支払約束時のいずれか遅い方

第64項

顧客に支払われる対価は、「別個の財・サービスを受け取るか」で売上控除と費用処理が分かれ、「いずれか遅い方」で減額を認識する、という2つのルールが核です。自社のリベート・協賛金・クーポン等を洗い出し、それぞれが別個の財・サービスの対価に当たるかの区分から着手してください。