はじめに

企業結合のうち「取得」とされたものには、いわゆるパーチェス法が適用されます。パーチェス法では、取得企業の資産・負債は従来の帳簿価額を引き継ぎ、被取得企業の資産・負債のみを時価で受け入れ、取得原価と純額との差額をのれん(または負ののれん)として処理します。

この処理の前提として不可欠なのが、「どちらが取得企業(買い手)で、どちらが被取得企業(売り手)か」という判定です。形式的には合併の存続会社や株式交換の完全親会社が買い手に見えても、会計上はその逆と判定されることがあります。本記事では、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」の第18項から第22項に基づき、取得企業の決定方法を実務に沿って解説します。

概要

取得企業の決定は、次の段階で判断します。

1. 連結会計基準の「支配」概念で判定(第18項)
    ↓
2. 主な対価の種類を確認
    ├─ 現金・他の資産・負債引受け → 対価を支出した企業が取得企業(第19項)
    └─ 株式 → 複数の考慮要素を総合判断(第20項)
    ↓
3. 相対的規模による判定(第21項)
    ↓
4. 結合当事企業が3社以上の場合の追加考慮(第22項)

判定の出発点はあくまで「支配」概念であり、第19項以降はその支配の所在を判断するための具体的な考慮要素を示したものと位置づけられます。

具体的な会計処理

判定の基礎:支配概念(第18項)

第18項は、取得とされた企業結合においては「いずれかの結合当事企業を取得企業として決定する」と定め、その判定にあたっては連結会計基準の考え方を用いるとしています。すなわち、ある結合当事企業が他の結合当事企業の意思決定機関を支配することになるかどうかを基礎に、取得企業を決定します。

ここでいう「支配」とは、ある企業または企業を構成する事業の活動から便益を享受するために、その意思決定機関を支配している状態をいいます(第7項の定義)。

対価が現金・他の資産・負債引受けの場合(第19項)

第19項は、主な対価の種類として「現金若しくは他の資産を引き渡す又は負債を引き受けることとなる企業結合」の場合には、通常、当該現金等の対価を支出した企業(または負債を引き受けた企業)が取得企業となるとしています。

支配の対価を支払った側が支配を獲得すると考えるのが自然であり、判定は比較的明確です。

対価の種類

取得企業となる企業

根拠条項

現金・他の資産の引渡し、負債の引受け

通常、対価を支出した企業

第19項

株式の交付

複数の考慮要素を総合判断

第20項

対価が株式の場合(第20項)

第20項は、主な対価の種類が株式(出資を含む)である企業結合の場合には、通常、当該株式を交付する企業が取得企業となるが、必ずしもそうとは限らないとし、次の要素を総合的に勘案して取得企業を決定するとしています。

考慮要素

内容

(1) 総体としての株主が占める相対的な議決権比率の大きさ

結合後企業の議決権のうち、いずれの結合当事企業の株主がより大きな比率を占めるか

(2) 最も大きな議決権比率を有する株主の存在

単独で大きな議決権比率を有する株主がどちらの結合当事企業の出身か

(3) 取締役等を選解任できる株主の存在

結合後企業の取締役等を実質的に選解任できる株主の所在

(4) 取締役会等の構成

結合後企業の取締役会等を支配する役員の出身企業

(5) 株式の交換条件

株式の交換比率が一方の結合当事企業の株式の時価に対しプレミアムを付した水準かどうか

これらを総合した結果、株式を交付した側(形式上の存続会社等)ではなく、株式を交付された側(形式上の消滅会社等)が取得企業と判定される場合があります。これがいわゆる逆取得です。逆取得の場合、形式上は買収された会社が会計上の取得企業となるため、財務諸表の作成において特別な注意が必要です。

仕訳例(株式を対価とする取得・取得企業の連結上の処理):A社(取得企業)がB社(被取得企業)を株式交付により取得し、取得原価が5億円、B社の識別可能純資産の時価が4億円の場合

(借方)諸資産(B社・時価)  600,000,000  (貸方)諸負債(B社・時価)  200,000,000
(借方)のれん            100,000,000  (貸方)資本(株式交付額)  500,000,000

取得原価500,000,000 − 識別可能純資産400,000,000 = のれん100,000,000 となります。取得企業の判定が逆であれば、時価評価する対象(被取得企業)が入れ替わり、のれんの金額も全く異なる結果となります。

逆取得が生じる典型例

たとえば、上場会社A社が非上場の事業会社B社を吸収合併し、合併対価としてA社株式を大量に交付した結果、合併後のA社の議決権の過半数をB社の旧株主が保有することになったとします。形式上はA社が存続会社(買い手)ですが、第20項(1)の議決権比率の観点では、結合後企業を実質的に支配するのはB社の旧株主です。この場合、会計上の取得企業はB社となり、A社の資産・負債が時価評価の対象(被取得企業側)となります。

このような逆取得は、上場会社を存続会社としつつ実質的には非上場会社が事業の主導権を握るスキーム(いわゆる裏口上場に近い形態を含む)で生じやすく、形式と実質の乖離が大きいケースほど判定を慎重に行う必要があります。なお、逆取得の場合の個別財務諸表上の取扱いについては、第34項以降に消滅会社・存続会社それぞれの処理が定められています。

相対的規模による判定(第21項)

第21項は、結合当事企業のうち、いずれかの企業の相対的な規模(例えば、総資産額、売上高あるいは純利益など)が著しく大きい場合には、通常、当該規模が著しく大きい結合当事企業が取得企業となるとしています。

第20項の議決権比率等で判断が難しい場合や、補強的な判断材料として、規模の大小が重要な指標となります。

規模の指標例

説明

総資産額

結合当事企業の資産規模の比較

売上高

事業規模の比較

純利益

収益力の比較

結合当事企業が3社以上の場合(第22項)

第22項は、結合当事企業が3社以上である場合の取得企業の決定にあたっては、第21項に加えて、いずれの企業がその企業結合を最初に提案したかについても考慮するとしています。

3社以上の結合では、規模の比較だけでは取得企業を一意に決めにくいため、「どの企業が結合を主導(最初に提案)したか」という事実が追加の判断要素となります。

実務上は、複数社が関与する経営統合や持株会社設立を伴う再編で第22項の考慮が必要になります。たとえば、3社が共同で持株会社を設立し、その傘下に入るような結合では、各社の規模(総資産・売上高・純利益)を並べて比較したうえで、結合の発案・主導が特定の1社によるものであれば、その企業が取得企業と判断される方向に働きます。判定にあたっては、統合の経緯(どの企業がいつ、どのような提案を行ったか)を記録した資料を整理しておくことが有用です。

判定要素が相反する場合の総合判断

第20項の各要素や第21項の規模が、それぞれ異なる企業を取得企業として示唆することがあります。たとえば、議決権比率では一方の企業の旧株主が優位である一方、取締役会の構成や規模では他方の企業が優位である、といったケースです。

このような場合、いずれか一つの要素を機械的に優先するのではなく、結合後企業の意思決定機関を実質的に支配するのはどちらかという第18項の支配概念に立ち返って総合的に判断します。判断の過程では、各要素がどちらの企業を示唆するかを一覧に整理し、最終的にどの要素を重視して結論に至ったのかを文書化しておくことが、監査対応や後日の説明責任の観点から重要です。

取得企業の決定が後続処理に与える影響

取得企業が決まると、パーチェス法の枠組みが具体的に動き出します。取得企業の資産・負債は従来の帳簿価額を引き継ぎ、被取得企業の資産・負債のみが企業結合日の時価で評価され、取得原価が配分されます(第28項)。その結果、取得原価が識別可能純資産の時価を上回ればのれん(第31項)、下回れば負ののれん(第33項)が生じます。

したがって、取得企業をどちらに決定するかは、(1)どちらの資産・負債を時価評価するか、(2)識別可能無形資産(第29項)をどちらの会社について認識するか、(3)のれん・負ののれんの金額、(4)結合後の償却費(のれんは20年以内、第32項)という一連の数値をすべて左右します。判定を誤れば、財務諸表全体の信頼性に影響するため、M&Aの初期段階で会計上の取得企業を確定し、関係者間で共有しておくことが不可欠です。

留意点

  • 判定は形式ではなく実質で行う:合併の存続会社・株式交換の完全親会社が必ずしも取得企業になるとは限らない。逆取得の可能性を常に検討する
  • 複数要素の総合判断:第20項の(1)から(5)は、いずれか一つで決まるものではなく、総合的に勘案する。ある要素は取得企業を示唆し、別の要素は逆を示唆することもあるため、判断の根拠を文書化しておくことが重要
  • 対価が混合する場合:現金と株式が混在する場合は、主な対価がいずれであるかを見極めたうえで、第19項・第20項のどちらの枠組みで判断するかを整理する
  • 判定結果がのれん金額に直結:取得企業の判定は、どちらの資産・負債を時価評価するか、のれんがいくら計上されるかを左右する。判定誤りは財務数値全体に波及するため、M&Aの初期段階で会計上の取得企業を確定させておく
  • 共同支配企業の形成・共通支配下の取引は対象外:本記事の判定は「取得」とされた企業結合に関するもの。共同支配企業の形成(第11項)や共通支配下の取引(第16項)は別の処理となる

まとめ

取得企業の決定は、次の流れで整理できます。

ステップ

判定内容

根拠条項

1. 支配概念

連結会計基準の支配概念を基礎に判定

第18項

2. 対価が現金等

通常、対価を支出した企業が取得企業

第19項

3. 対価が株式

議決権比率・株主の存在・取締役会の構成・交換条件等を総合判断

第20項

4. 相対的規模

規模が著しく大きい企業が取得企業

第21項

5. 3社以上

規模に加え、最初に提案した企業も考慮

第22項

取得企業の決定は、パーチェス法の入口であり、その後の時価評価・のれん計上のすべてを規定する重要な判断です。特に株式を対価とする結合では逆取得の可能性を見落とさないよう、第20項の各要素を丁寧に評価し、判断根拠を残しておくことが実務上の要点となります。