はじめに
企業会計基準委員会(ASBJ)は、IFRS16号「リース」に準拠した新リース会計基準の開発を進めています。この基準が適用されると、借手は原則として全てのリースについて使用権資産とリース負債をBSに計上する必要があります。
特に不動産賃貸借やカーリースなど、オペレーティングリースとして費用処理していた取引がオンバランスされるため、BSの構造が大きく変わります。
概要
従来の基準と新基準の違い
項目 | 従来の基準 | 新基準 |
|---|---|---|
分類 | ファイナンスリース/オペレーティングリース | 原則廃止(全てオンバランス) |
オペレーティングリースの処理 | リース料を費用計上(オフバランス) | 使用権資産・リース負債をBSに計上 |
ファイナンスリースの処理 | リース資産・リース債務をBSに計上 | 使用権資産・リース負債に名称変更(実質的に同じ) |
PLへの影響 | オペリースは「賃借料」として一括表示 | 使用権資産の「減価償却費」とリース負債の「利息費用」に分解 |
具体的な会計処理
使用権資産とリース負債の計上
リース負債:リース期間にわたるリース料の現在価値
使用権資産:リース負債の金額 + 前払リース料 + 初期直接コスト − リースインセンティブ
計算例:月額100万円、リース期間5年、割引率3%のオフィス賃貸借
年間リース料:12,000,000円
リース期間:5年
割引率:3%
リース負債 = 12,000,000 × 年金現価係数(3%, 5年)
= 12,000,000 × 4.5797
= 54,956,400円
使用権資産 = 54,956,400円(その他の調整項目なしの場合)
開始日の仕訳:
(借方)使用権資産 54,956,400 (貸方)リース負債 54,956,400
毎期の会計処理
減価償却費の計上:使用権資産をリース期間で定額法により償却
年間償却費 = 54,956,400 ÷ 5年 = 10,991,280円
(借方)減価償却費 10,991,280 (貸方)使用権資産 10,991,280
リース料の支払い(利息法):
1年目の利息 = 54,956,400 × 3% = 1,648,692円
1年目の元本返済 = 12,000,000 - 1,648,692 = 10,351,308円
(借方)リース負債 10,351,308 (貸方)現金預金 12,000,000
支払利息 1,648,692
PLへの影響
項目 | 従来(オペリース) | 新基準 |
|---|---|---|
賃借料(営業費用) | 12,000,000円 | なし |
減価償却費(営業費用) | なし | 10,991,280円 |
支払利息(営業外費用) | なし | 1,648,692円 |
費用合計 | 12,000,000円 | 12,639,972円 |
営業利益への影響 | − | 営業利益が約100万円改善(利息が営業外に移動) |
初年度は費用合計が増加しますが(利息費用が期首の負債残高に対して計算されるため)、後半年度は逆転します。リース期間全体では総費用は変わりません。
免除規定
短期リース免除:リース期間が12ヶ月以下のリースは、従来どおりリース料を費用処理できます。
少額リース免除:原資産が少額(目安:新品時500万円以下)のリースは、従来どおり費用処理できます(例:PCリース、複合機リース)。
実務上の留意点
リース期間の決定:解約不能期間に加え、延長オプションの行使又は解約オプションの不行使が「合理的に確実」な場合は、その期間も含めます。
割引率の選定:リースの計算利子率が判明する場合はそれを使用。判明しない場合は追加借入利率を使用します。
リース契約の識別:契約がリースを含むかどうかの判定が必要です。サービス契約の中にリースの要素が含まれる場合があります(例:ITアウトソーシング契約に含まれるサーバーリース)。
留意点
- 適用初年度の経過措置:初度適用時は、全ての既存リースを遡及適用する方法と、適用開始日時点で一括認識する簡便法の選択肢がある
- 不動産賃貸借の影響が大きい:オフィス、店舗、倉庫などの不動産賃貸借はリース料が大きく、BSへの影響が特に大きい
- リース台帳の整備:全てのリース契約を網羅的に把握・管理するリース台帳の整備が必須。契約管理が分散している場合は棚卸しが必要
- 税務上の取扱い:税務上はリース料が損金算入される。会計と税務の差異から一時差異(税効果)が生じる
まとめ
項目 | 影響 |
|---|---|
BS | 総資産と総負債が増加(使用権資産・リース負債の計上) |
PL | 営業利益は改善(利息が営業外に)、税前利益は同額(期間全体で中立) |
自己資本比率 | 総資産の増加により低下する |
EBITDA | 改善(リース料が減価償却費+利息に分解され、EBITDAからは除外される) |
財務制限条項 | 有利子負債の増加により抵触リスク。事前に金融機関と協議が必要 |
新基準の適用に向けて、まずは自社のリース契約の棚卸しから始め、BSへの影響額を試算することが第一歩です。