はじめに

M&Aの実務では、買収後の対象会社の業績や特定の事象の達成度合いに応じて、買収対価を後から追加で支払う「アーンアウト条項(earn-out)」がしばしば用いられます。これは、売り手と買い手の間で対象事業の将来価値に対する見解が異なる場合に、価格の調整弁として機能する仕組みです。

このような将来の結果に依存して変動する対価は、会計上「条件付取得対価」として、通常の取得対価とは区別して処理されます。本記事では、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」第27項に基づき、条件付取得対価の会計処理を、アーンアウト条項の実務に即して解説します。

概要

条件付取得対価の処理は、まず対価が「何に依存して」変動するかによって区分し、それぞれの確定時に処理します。

条件付取得対価
    ├─ (1) 将来の業績に依存する型(アーンアウト条項等)
    │       → 交付・引渡しが確実かつ時価が合理的に決定可能となった時点で
    │          取得原価を追加認識し、のれんを追加認識または減額
    │
    └─ (2) 特定の株式・社債の市場価格に依存する型
            → 追加交付するとともに、当初交付対価の一部を返還させる等

いずれも、企業結合日に対価が確定していない部分を、条件の充足・確定にあわせて事後的に取得原価へ反映する点が共通しています。条件付取得対価は、企業結合日の時点では金額や交付の有無が確定していないため、確定対価とは切り離して扱い、条件が確定した段階で会計処理を行うのが基本的な考え方です。どちらの類型に該当するかによって確定時の処理が変わるため、まずは契約上の取決めがどちらの性質を持つかを見極めることが出発点となります。

具体的な会計処理

区分(1):将来の業績に依存する条件付取得対価(第27項(1))

第27項(1)は、将来の業績に依存する条件付取得対価について定めています。これは、買収後の対象会社(または事業)の利益・売上などの業績が一定水準に達した場合に、追加で対価を交付・引き渡すといった、いわゆるアーンアウト条項に該当する類型です。

この場合、条件付取得対価の交付または引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、次の処理を行います。

  • 支払対価を取得原価として追加的に認識する
  • 追加認識した取得原価に対応して、のれんを追加的に認識または減額する(取得原価の増減に応じてのれんを修正する)

すなわち、企業結合日には未確定であった追加対価を、条件が確実になった段階で取得原価に取り込み、その分のれんを調整します。企業結合日の時点では追加対価の支払いが見込みにとどまるため取得原価には算入せず、業績条件が達成され支払いが確実かつ金額(時価)が合理的に決定可能となってはじめて、取得原価とのれんへ反映するという考え方です。

タイミング

処理

企業結合日

確定している取得対価のみで取得原価を算定(条件付部分は未認識)

条件が確実・時価が合理的に決定可能となった時点

追加対価を取得原価に追加認識し、のれんを追加認識または減額

仕訳例(業績条件達成によりアーンアウト対価2,000万円の支払いが確実となった場合)

(借方)のれん  20,000,000  (貸方)未払金(条件付取得対価)  20,000,000

追加で認識した取得原価2,000万円に対応してのれんを増額します。この時点で、企業結合日に算定したのれんに2,000万円が上乗せされることになります。その後の支払時は次のとおりです。

(借方)未払金(条件付取得対価)  20,000,000  (貸方)現金預金  20,000,000

追加認識されたのれんは、確定後の金額を基礎に、残存する効果の及ぶ期間にわたり償却します。すなわち、取得日に計上したのれんに追加対価分が上乗せされ、その後の各期の償却額が増加することになります。

アーンアウト条項の典型例

アーンアウト条項は、たとえば「買収後2期にわたり対象事業の営業利益が一定額を超えた場合に、超過額に応じて追加対価を支払う」といった形で設計されます。売り手は将来の成長に対する期待を対価に反映でき、買い手は買収時点での過大な支払いを避けつつ、実際の業績に連動して対価を支払えるという利点があります。

会計上は、企業結合日には確定対価のみで取得原価とのれんを算定し、各期末に業績条件の達成状況を見極めます。条件の達成が確実となり、追加対価の時価が合理的に決定可能となった時点で、上記の仕訳のとおり取得原価とのれんを追加的に修正します。条件が複数年にわたって段階的に確定する設計であれば、確定するつど追加認識を行うことになります。

区分(2):特定の株式または社債の市場価格に依存する条件付取得対価(第27項(2))

第27項(2)は、特定の株式または社債の市場価格に依存する条件付取得対価について定めています。これは、対価として交付した株式や社債の市場価格が一定の条件を満たさない場合に、その価値の目減りを補うために追加の対価を交付する、といった類型です。

この場合は、追加で対価を交付するとともに、状況に応じて当初に交付した対価の一部を返還させるなどの処理を行います。市場価格の変動を埋め合わせる性質のため、業績依存型のように単純にのれんを追加するのではなく、当初対価との調整を伴う点が特徴です。

たとえば、買収対価として交付した株式の市場価格が将来の一定時点で当初想定を下回った場合に、その目減り分を補填するために追加の株式を交付する、といった取決めが該当します。この場合、追加交付によって支払対価の総額は当初想定した水準に近づくよう調整されるため、対価の経済的価値を一定に保つことが目的となります。逆に、市場価格が上振れした場合には当初交付した対価の一部を返還させる設計もあり、いずれも市場価格の変動リスクを売り手・買い手のいずれが負担するかという契約設計に応じて処理します。

区分

依存する要因

確定時の処理の方向性

(1) 業績依存型

買収後の業績(利益・売上等)

取得原価を追加認識し、のれんを追加認識または減額

(2) 市場価格依存型

交付した株式・社債の市場価格

追加交付+当初交付対価の一部返還等で調整

条件付取得対価とのれん償却・投資採算

条件付取得対価のうち業績依存型は、条件が確定した時点でのれんを追加認識するため、結合後ののれん償却負担に直接影響します。アーンアウトの上限額が大きい案件では、条件が満額で達成された場合にのれんが大きく膨らみ、その後の各期の償却費が増加します。

このため、M&Aの投資採算評価では、確定対価のみを前提とした試算に加え、アーンアウトが上限まで支払われるシナリオでの取得原価・のれん・償却負担を併せて見積もっておくことが実務上有用です。条件が達成されるということは対象事業の業績が好調であることを意味するため、追加対価の支払い(=のれん増)とそれを生み出す収益の関係をあわせて評価することで、買収全体の経済合理性を見通しやすくなります。

また、条件付取得対価がある場合は、その内容・算定方法・今後の会計処理に与える影響について適切に開示を検討し、財務諸表利用者が将来の取得原価の変動可能性を理解できるようにすることが求められます。

M&A契約交渉時に確認すべき事項

条件付取得対価の会計処理は、契約条件にそのまま規定されます。したがって、会計・財務の担当者は、契約交渉の段階から関与し、次の事項を確認しておくことが望まれます。

確認事項

確認の趣旨

条件付対価の有無

そもそもアーンアウト等の取決めがあるか

依存する指標

業績(利益・売上等)か、株式・社債の市場価格か(区分(1)・(2)の判定に直結)

算定式・上限額

追加対価の計算方法と最大支払額(のれん増の上限を把握)

支払時期・確定時期

いつの時点で条件が確定し、追加認識が必要になるか

返還条項の有無

当初対価の一部返還が生じうるか(区分(2)で特に重要)

これらを交渉段階で整理しておくことで、企業結合日における取得原価の算定、条件確定時の追加認識、そしてのれん償却負担の見通しまでを一貫して見通すことができます。契約締結後に会計処理の前提を確認すると、必要な情報が契約に盛り込まれていないといった手戻りが生じかねないため、早期の関与が実務上の鍵となります。

留意点

  • 企業結合日には条件付部分を取得原価に含めない:条件が確実となり時価が合理的に決定可能となるまでは、業績依存型の追加対価は取得原価・のれんに反映しない。見切り発車で先取り計上しない
  • のれんの追加認識は償却に影響:条件確定でのれんが追加されると、その後の償却負担が増える。M&Aの投資採算評価において、最大支払額(アーンアウトの上限)を前提としたのれん償却の試算をしておく
  • 契約交渉時の確認が起点:会計処理は契約条件に強く依存する。交渉段階で、(a)条件付対価の有無、(b)依存する指標(業績か市場価格か)、(c)算定式・上限額・支払時期、(d)返還条項の有無を整理し、会計・税務の担当と共有する
  • 見積りと開示:条件付取得対価がある場合、その内容や今後の会計処理に与える影響について適切な開示を検討する
  • 区分の判定を誤らない:業績依存型と市場価格依存型では確定時の処理の方向性が異なる。契約の経済的実質に照らして、どちらの類型に該当するかを慎重に判定する

まとめ

条件付取得対価の会計処理は、次のように整理できます。

区分

内容

確定時の処理

根拠条項

(1) 業績依存型

アーンアウト条項等。買収後の業績に依存

交付確実・時価決定可能となった時点で取得原価を追加認識し、のれんを追加認識または減額

第27項(1)

(2) 市場価格依存型

交付した株式・社債の市場価格に依存

追加交付+当初交付対価の一部返還等で調整

第27項(2)

アーンアウト条項に代表される条件付取得対価は、「企業結合日に確定していない対価を、条件の確定にあわせて取得原価とのれんに反映する」という後追いの処理が基本です。会計処理は契約条件次第で大きく変わるため、M&Aの契約交渉の段階から会計担当が関与し、条件・指標・上限額を把握しておくことが、確定時の円滑な処理とのれん償却負担の見通しにつながります。