はじめに
企業結合(取得)が行われた年度の決算では、「被取得企業の損益をいつから取り込むのか」「比較情報としてどこまで開示するのか」という論点が必ず生じます。取得は資産・負債を時価で受け入れる取引であり、被取得企業がそれまで計上してきた損益は、支配を獲得した時点を境に結合後企業の損益とは区別されます。
本記事では、企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」の開示規定(第49項を中心に第50項・第51項)に基づき、企業結合年度の損益取込み期間と比較損益情報の作成について、実務の手順に沿って解説します。
概要
取得とされた企業結合における損益・期間表示は、おおむね次の流れで整理できます。
1. 取得日(支配獲得日)の特定
↓
2. みなし取得日の設定(実務簡便法)
↓
3. 被取得企業の損益のうち取得日以後分を取込み
↓
4. 第49項(2):業績の期間を注記
↓
5. 第49項(5):比較損益情報を注記(重要性あり)
第15項では「企業結合日」を、被取得企業若しくは取得した事業に対する支配が取得企業に移転した日と定義しています。損益の取込みは、この企業結合日(取得日)を起点とします。
具体的な会計処理
取得日と「みなし取得日」を特定する
企業結合日(第15項)は支配が移転した日を指しますが、被取得企業の決算を日割りで把握することは実務上困難な場合があります。そこで、支配獲得日に最も近い決算日(四半期決算日を含む)を「みなし取得日」とし、その日をもって被取得企業を取り込む実務が一般的です。
概念 | 内容 |
|---|---|
企業結合日(第15項) | 支配が取得企業に移転した日 |
取得日 | 取得とされた企業結合における企業結合日 |
みなし取得日 | 支配獲得日に近接する決算日。実務上の取込み起点 |
みなし取得日を用いた場合、損益計算書には「みなし取得日から決算日まで」の被取得企業の損益が含まれます。貸借対照表(純資産・のれん)はみなし取得日の時価で測定します。
取得日前後で損益を区分する
被取得企業の当期損益は、取得日(みなし取得日)を境に、結合後企業に取り込む部分とそれ以前の部分に区分します。
- 取得日以後の損益 → 結合後企業の損益計算書に取り込む
- 取得日より前の損益 → 結合後企業の損益には含めない(被取得企業の従前の株主に帰属していた期間)
例えば3月決算の会社が、当期の10月1日に他社を取得(みなし取得日も10月1日)した場合、被取得企業の損益は10月1日〜翌3月31日の6か月分のみが連結損益計算書に取り込まれます。
被取得企業の事業年度(4/1〜3/31)
├─ 4/1 ────── 9/30 :取込対象外(取得日前)
└─ 10/1 ───── 3/31 :結合後企業の損益に取込み(6か月)
第49項(2):業績の期間を注記する
第49項は、企業結合年度において取得とされた企業結合に係る重要な取引がある場合に注記すべき事項を列挙しており、その(2)で「財務諸表に含まれている被取得企業又は取得した事業の業績の期間」の注記を求めています。
これは、当期の損益計算書に被取得企業の業績が「いつからいつまで」含まれているかを開示するものです。前述の例であれば「当連結会計年度において、被取得企業の業績は×年10月1日から×年3月31日までの期間が含まれている」旨を記載します。
注記イメージ(業績の期間):
(業績の期間)
連結損益計算書には、みなし取得日を×年10月1日として
いることから、被取得企業の×年10月1日から×年3月31日
までの業績が含まれています。
第49項(5):比較損益情報を注記する
第49項(5)は「比較損益情報」の注記を定めています。これは、企業結合が当期首に行われたと仮定した場合の当期の損益への影響の概算額(売上高・損益等)を注記するものです。重要性が乏しい場合には注記を省略できます。
比較損益情報は、取得が期中に行われたために損益計算書に部分的な期間しか取り込まれていないことを補い、財務諸表利用者が結合後企業の収益力を期間比較できるようにする趣旨のものです。あくまで「概算額」であり、監査を受けた金額である必要はありませんが、算定方法の合理性は説明できるようにしておきます。
注記イメージ(比較損益情報):
(比較損益情報)
当該企業結合が当連結会計年度の開始の日に完了したと
仮定した場合の当連結会計年度の連結損益計算書に及ぼす
影響の概算額は、売上高 ○○百万円、営業利益 ○○百万円
であります。
なお、影響の概算額は監査証明を受けておりません。
段階取得・逆取得など特殊ケースの取扱い
- 段階取得(第25項):連結上は支配獲得時の時価で取得原価を算定するため、それ以前に保有していた株式の評価差額の取扱いに留意する。連結財務諸表を作成しない場合の注記は第51項に定めがある。
- 逆取得(第50項):法律上の存続会社と会計上の取得企業が異なる場合、取得企業(消滅会社等)の資産・負債を企業結合直前の適正な帳簿価額により計上する点に注意する。
ケース | 損益取込み・期間表示の留意点 |
|---|---|
通常の取得 | みなし取得日以後の損益を取込み、第49項(2)(5)を注記 |
段階取得(第25項) | 支配獲得日を起点。従前持分の取扱いに留意 |
逆取得(第50項) | 会計上の取得企業を基準に表示 |
連結を作成しない段階取得(第51項) | 第49項に準じた注記+差額情報を開示 |
設例:期中取得の損益取込みと注記を作成する
具体的な数値で、損益取込みから注記までの流れを確認します。
前提:当社(3月決算・連結)は、当期×年10月1日にA社の株式を取得し、支配を獲得した。みなし取得日は×年10月1日とする。A社の通期(4/1〜翌3/31)の業績見込みは、売上高2,400・営業利益240。
ステップ1(取込み期間):みなし取得日10月1日以後の6か月分のみを連結損益計算書に取り込む。A社の損益が期間を通じて平準的に発生すると仮定すると、連結に取り込まれる金額は売上高1,200・営業利益120となる。
A社通期 : 売上高 2,400 / 営業利益 240
取込期間(10-3月): 売上高 1,200 / 営業利益 120 ← 連結P/Lに反映
取込対象外(4-9月): 売上高 1,200 / 営業利益 120 ← 反映されない
ステップ2(第49項(2)の業績期間注記):取り込んだのが10月1日〜3月31日であることを注記する。
(業績の期間)
連結損益計算書には、みなし取得日を×年10月1日として
いるため、A社の×年10月1日から×年3月31日までの
業績が含まれています。
ステップ3(第49項(5)の比較損益情報):企業結合が当期首(4月1日)に行われたと仮定した場合の影響概算額を注記する。期首取得を仮定すれば通期分(売上高2,400・営業利益240)が取り込まれるため、実際の取込額との差(売上高+1,200・営業利益+120)が概算の追加影響額となる。
(比較損益情報)
当該企業結合が当連結会計年度の開始の日に完了したと
仮定した場合の影響の概算額は、売上高 2,400百万円、
営業利益 240百万円であり、実際の取込額との差額は
売上高 1,200百万円、営業利益 120百万円であります。
なお、当該概算額は監査証明を受けておりません。
このように、第49項(2)は「実際にいくら取り込んだか」、第49項(5)は「期首取得ならいくらだったか」を示すもので、両者は補完関係にあります。
連結と個別での開示の差
連結財務諸表を作成している会社では、第49項の注記は主として連結ベースで行います。連結財務諸表を作成しない会社(段階取得の場合)については第51項に、第49項に準じた事項に加えて、第25項(2)に準じて被取得企業の取得原価を算定したとした場合の差額や個別貸借対照表への影響を開示する定めがあります。自社が連結を作成するかどうかで、注記の根拠条項と記載内容が変わる点を整理しておきましょう。
留意点
- みなし取得日と注記の整合:みなし取得日を何月何日に設定したかと、第49項(2)で注記する業績の期間は必ず一致させる。決算日基準の設定根拠を文書化しておく
- 比較損益情報の重要性判断:第49項(5)は重要性が乏しければ省略可能だが、省略の判断根拠(金額的・質的影響の評価)を残しておく
- 概算額の前提開示:比較損益情報は概算額であるため、算定の前提(期首取得を仮定、内部取引の調整有無等)を簡潔に付記すると利用者の誤解を防げる
- 取得関連費用の期間帰属:取得関連費用(第26項)は発生した事業年度の費用として処理するため、取得原価には含めない点と、損益取込みの期間とは別管理であることに注意
- 複数の企業結合がある場合:年度内に複数の重要な取得がある場合は、原則として企業結合ごとに注記する(重要性が乏しいものはまとめて記載できる)
まとめ
企業結合年度の損益・期間表示のポイントを整理すると、次のとおりです。
論点 | 根拠 | 実務対応 |
|---|---|---|
取得日の特定 | 第15項 | 支配移転日を確認 |
取込み起点 | 実務簡便法 | みなし取得日を決算日基準で設定 |
損益区分 | — | 取得日前後で按分・区分 |
業績の期間注記 | 第49項(2) | 取込み期間を開示 |
比較損益情報 | 第49項(5) | 期首取得仮定の概算額を注記 |
被取得企業の業績は「取得日以後」だけが結合後企業に取り込まれるという原則を押さえれば、第49項(2)の業績期間注記と第49項(5)の比較損益情報の役割が見えてきます。まずは自社の取得案件について、みなし取得日と取込み期間を確定し、その根拠資料を整えるところから着手してください。