はじめに

M&A、合併、会社分割、株式交換――企業結合は多様な形態をとりますが、会計処理の出発点は「この取引がどの分類に該当するか」を判定することです。

企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」は、企業結合を3つに分類し、それぞれ異なる会計処理を定めています(第17項、第37項、第40項)。本記事では、各分類の判定基準と会計処理の違いを整理します。

概要

企業結合の3分類と基本的な処理方法は以下のとおりです。

分類

定義

会計処理

資産・負債の評価

取得

左記2つ以外の企業結合

パーチェス法

時価

共同支配企業の形成

複数の独立企業が共同で支配する企業を形成

帳簿価額で計上

帳簿価額

共通支配下の取引

結合前後で同一の株主が最終的に支配

帳簿価額で計上

帳簿価額

実務上、多くの企業結合は「取得」に分類されます。

具体的な会計処理

取得の会計処理(パーチェス法)

取得企業の決定(第18項~第22項)

まず「どちらの企業が取得企業か」を決定します。判定要素は以下のとおりです。

判定要素

取得企業となる企業

現金・資産を対価とする場合

現金・資産を引き渡す企業(第19項)

株式交換の場合

結合後企業の議決権比率が最も大きい株主グループの元の企業(第20項)

取締役会等の構成

結合後企業の取締役会等を事実上支配する企業(第20項(4))

規模が著しく異なる場合

総資産・売上高・純利益が著しく大きい企業(第21項)

取得原価の算定(第23項~第27項)

取得原価は、対価となる財の企業結合日における時価で算定します(第23項)。

段階取得の場合(第25項):

  • 個別財務諸表上:個々の取引ごとの原価合計額
  • 連結財務諸表上:すべての取引を企業結合日の時価で再測定。原価合計額との差額は「段階取得に係る損益」として処理

取得関連費用(第26項):外部アドバイザーへの報酬等は発生年度の費用として処理します(取得原価には含めない)。

取得原価の配分とのれん(第28項~第33項)

取得原価は、被取得企業の識別可能な資産・負債に時価を基礎として配分します(第28項)。配分は企業結合日以後1年以内に行います。

具体例:A社がB社を取得原価50億円で取得した場合

B社の識別可能な資産(時価)   80億円
B社の識別可能な負債(時価)  △35億円
─────────────────────
識別可能純資産              45億円
取得原価                   50億円
─────────────────────
のれん                      5億円

のれんの処理(第32項):

  • 20年以内のその効果の及ぶ期間にわたり、定額法その他の合理的な方法で規則的に償却
  • 金額に重要性が乏しい場合は発生年度の費用とすることが可能
  • 減損の兆候がある場合は減損テストも必要

負ののれんの処理(第33項):

  • 取得原価が識別可能純資産を下回る場合に発生
  • まず、資産・負債の把握と取得原価の配分が適切か再確認
  • それでも残る場合は、発生事業年度の利益として一括認識

共同支配企業の形成

複数の独立した企業が契約等に基づき共同で支配する企業を形成する企業結合です(第37項)。

判定要件

  1. 支払われた対価のすべてが原則として議決権のある株式であること
  2. 支配関係を示す一定の事実が存在しないこと

会計処理(第38項~第39項):

  • 共同支配企業は、移転する資産・負債を移転直前の適正な帳簿価額で計上
  • 個別財務諸表では、受け取った投資の取得原価を移転事業の株主資本相当額で算定
  • 連結財務諸表では、持分法を適用

共通支配下の取引

結合前後で同一の株主が最終的に支配するグループ内の取引です(第16項、第40項)。親子間の合併や子会社同士の合併が典型例です。

会計処理(第41項~第44項):

財務諸表

処理

個別財務諸表

移転する資産・負債を移転直前の適正な帳簿価額で計上(第41項)

連結財務諸表

内部取引としてすべて消去(第44項)

差額は純資産として処理し、損益は認識しません(第42項)。

ただし、非支配株主との取引については、追加取得する株式の取得原価を時価で算定し、連結上は連結会計基準の子会社株式追加取得・一部売却の取扱いに準じて処理します(第45項~第46項)。

実務上の留意点

条件付取得対価(第27項):将来の業績に依存する追加対価(アーンアウト条項)は、支払いが確実となり時価が合理的に決定可能となった時点で認識し、のれんを追加計上します。

のれんの償却期間の決定:「効果の及ぶ期間」は画一的に20年とするのではなく、超過収益力の持続見込みを合理的に見積もる必要があります。監査上の重要な論点となりやすい項目です。

暫定的な会計処理:取得原価の配分は1年以内に完了する必要がありますが、暫定的な処理で決算を行い、確定した期に遡及修正することが認められています。

留意点

  • 取得企業の判定が難しいケース:対等合併に見えても、会計上は必ずどちらかが取得企業となる。議決権比率、取締役会構成、相対的規模を総合的に判断する必要がある
  • 識別可能な無形資産:ブランド、顧客リスト、技術等の無形資産は、法律上の権利や分離して譲渡可能な場合に識別可能として個別に時価評価する(第29項)
  • 日本基準とIFRSの相違:のれんの償却(日本基準)vs 非償却+減損テスト(IFRS)は企業結合会計の最大の相違点。IFRS任意適用を検討する際の重要な考慮事項
  • 取得関連費用の処理変更:平成25年改正で取得原価への算入から費用処理に変更されたため、過去の実務との連続性に注意

まとめ

企業結合の会計処理は、まず3分類の判定から始まります。

判定ステップ

確認事項

1. 共通支配下か?

結合前後で同一の株主が最終支配 → 帳簿価額で処理

2. 共同支配企業の形成か?

株式対価+支配関係なし → 帳簿価額で処理

3. 上記以外 → 取得

パーチェス法で時価評価、のれんを計上

M&Aの検討段階から「会計上どの分類になるか」「のれんがいくら発生するか」を把握しておくことが、経営判断とディスクロージャーの両面で重要です。