はじめに
連結財務諸表は、親会社を中心とする企業集団を単一の組織体とみなして、その財政状態・経営成績・キャッシュ・フローの状況を報告するための財務諸表です。この「企業集団」をどこまで含めるかを決めるのが「連結の範囲」の論点であり、連結会計のすべての出発点となります。
連結の範囲を誤ると、子会社の資産・負債・損益が連結財務諸表から漏れる(あるいは過大に取り込まれる)ことになり、企業集団全体の実態を歪めてしまいます。本記事では、企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」に基づき、子会社判定の中核である「支配力基準」と、連結の範囲の決定プロセスを実務の流れに沿って解説します。
概要
連結の範囲は、次のステップで決定します。
1. 親会社・子会社の定義を確認
↓
2. 支配力基準で子会社に該当するかを判定(議決権+実質支配)
↓
3. 原則:すべての子会社を連結の範囲に含める
↓
4. 例外:更生会社等は連結から除外(強制除外)
↓
5. 例外:重要性の乏しい子会社は連結に含めないことができる(任意除外)
かつては議決権の過半数所有のみを基準とする「持株基準」が用いられていましたが、形式的な持株割合だけでは支配の実態を捉えきれないため、現在は「支配力基準」が採用されています。
具体的な会計処理
ステップ1:親会社・子会社の定義を確認する
連結の範囲の前提となるのが、親会社と子会社の定義です。
用語 | 定義 |
|---|---|
企業(第5項) | 会社及び会社に準ずる事業体(会社、組合その他これらに準ずる事業体) |
親会社(第6項) | 他の企業の財務及び営業又は事業の方針を決定する機関(株主総会その他これに準ずる機関)を支配している企業 |
子会社(第6項) | 当該他の企業(=親会社に支配されている企業) |
ここで核心となるのが「意思決定機関を支配している」という概念です。形式的な議決権の所有割合ではなく、実質的に方針決定機関を支配しているかどうかで判断する点が「支配力基準」の本質です。
ステップ2:支配力基準で子会社を判定する
第7項は「他の企業の意思決定機関を支配している企業」を具体的に定めています。次のいずれかに該当すれば、その他の企業は子会社に該当します(ただし、財務上又は営業上若しくは事業上の関係からみて意思決定機関を支配していないことが明らかであると認められる場合を除く)。
区分 | 判定の要件 |
|---|---|
① 議決権の過半数所有 | 他の企業の議決権の過半数(50%超)を自己の計算において所有している場合 |
② 40%以上+支配の事実(第7項(2)) | 議決権の40%以上50%以下を所有し、かつ一定の支配の事実が認められる場合 |
③ 緊密者等と合算して過半数+支配の事実 | 自己所有と緊密な者・同意している者の議決権を合わせて過半数を占め、かつ一定の支配の事実が認められる場合 |
②③の「一定の支配の事実」としては、たとえば次のような事実が挙げられます。
- 自己と緊密な者・同意している者の議決権を合わせて過半数を占めている
- 役員・使用人等が取締役会の構成員の過半数を占めている
- 重要な財務・営業・事業の方針決定を支配する契約等が存在する
- 資金調達総額の過半について融資(債務保証・担保提供を含む)を行っている
このように、議決権が過半数に満たなくても、実質的な支配の事実があれば子会社と判定されるのが支配力基準の要点です。
判定例:
〔ケースA〕P社がS社の議決権を55%所有
→ 過半数所有(①)に該当 → S社は子会社
〔ケースB〕P社がS社の議決権を45%所有、かつP社の役員が
S社取締役会の過半数を占める
→ 40%以上+支配の事実(②)に該当 → S社は子会社
〔ケースC〕P社がS社の議決権を45%所有、支配の事実なし、
緊密者の所有もない
→ 子会社に該当せず(関連会社等として持分法適用を検討)
ステップ3:原則としてすべての子会社を連結する
子会社と判定された企業は、第13項により、親会社は原則としてそのすべてを連結の範囲に含めます。連結の範囲は恣意的に取捨選択するものではなく、支配の事実に従って機械的に確定するのが原則です。
ステップ4:更生会社等を連結から除外する(強制除外)
第14項は、子会社のうち次に該当するものは連結の範囲に含めないと定めています(強制除外)。
強制除外の対象 | 理由 |
|---|---|
支配が一時的であると認められる企業 | 継続的な支配がなく、企業集団の一体性を欠く |
上記以外で、連結することにより利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれのある企業 | 企業集団の状況の適正な表示を損なう |
「支配が一時的」または「有効な支配従属関係が存在しない」典型例として、更生会社・整理会社・破産会社など法的整理手続下にあり、親会社の支配が及ばなくなっている会社が挙げられます。これらは法律上は子会社であっても、連結の範囲から除外します。
ステップ5:重要性の乏しい子会社の取扱い(任意除外)
第14項は、子会社であって、その資産・売上高等からみて連結の範囲から除いても企業集団の財政状態・経営成績及びキャッシュ・フローの状況に関する合理的な判断を妨げない程度に重要性の乏しいものは、連結の範囲に含めないことができると定めています(任意除外)。
重要性の判断は、量的側面(資産・売上高・利益・利益剰余金等の連結財務諸表に占める割合)と質的側面の両面から行います。
区分 | 取扱い | 根拠 |
|---|---|---|
通常の子会社 | 連結に含める(原則) | 第13項 |
更生会社等(支配が一時的・有効でない) | 連結から除外(強制) | 第14項 |
重要性の乏しい子会社 | 連結に含めないことができる(任意) | 第14項 |
なお、重要性の乏しさを理由に連結から除外した子会社(非連結子会社)であっても、持分法の適用対象となる場合があり、また重要性が乏しいかどうかは毎期判定する必要があります。
留意点
- 継続適用の原則:連結の範囲の決定基準・手続は毎期継続して適用し、みだりに変更してはならない(第12項)。重要性基準の閾値を恣意的に動かして連結範囲を調整することは認められない
- 重要性は累積で判断:個々の非連結子会社は重要性が乏しくても、複数を合算すると重要となる場合がある。除外の判断は集団全体への影響で行う
- 支配の事実の継続的モニタリング:議決権が過半数未満の出資先は、役員派遣・契約・融資関係の変化により支配の有無が変動しうるため、毎期支配力基準を再判定する
- 子会社の決算日のズレ:子会社の決算日が連結決算日と異なる場合、原則として連結決算日に正規の決算に準ずる手続を行う(第16項)。差異が3か月を超えない場合の取扱いには実務上の特例がある
- 会計処理の統一:同一環境下の同一性質の取引について、親会社・子会社が採用する会計方針は原則として統一する(第17項)。連結範囲に取り込む前提として会計方針の整合性を確認する
まとめ
連結の範囲の決定プロセスを整理すると、以下のとおりです。
ステップ | 処理内容 | 根拠 |
|---|---|---|
1. 定義確認 | 親会社・子会社・企業の定義を確認 | 第5・6項 |
2. 子会社判定 | 支配力基準(議決権+実質支配)で判定 | 第7項 |
3. 原則 | すべての子会社を連結に含める | 第13項 |
4. 強制除外 | 更生会社等(支配が一時的・有効でない)を除外 | 第14項 |
5. 任意除外 | 重要性の乏しい子会社は含めないことができる | 第14項 |
連結の範囲は、形式的な持株割合ではなく「実質的に意思決定機関を支配しているか」という支配力基準で決まります。まずは出資先ごとに議決権所有割合と支配の事実を棚卸しし、子会社・非連結子会社・関連会社の区分を確定するところから始めてみてください。